広島大学原爆死没者追悼式 追悼の辞 (令和6年8月6日)
今年も「原爆の日」が巡ってまいりました。「広島大学原爆死没者追悼式」を挙行するにあたり、広島大学を代表して、原爆の犠牲となられた方々の御霊(みたま)に謹んで哀悼の誠(まこと)をささげます。
本日は、世界の主要な大学の学長の皆様をはじめ、多くの方々をお迎えしております。皆様のご参加に深く感謝いたします。先ほど「広島大学原爆死没者追悼之碑」に、この1年間に確認された19人のお名前を書き加え、合わせて2,099人の方々の名簿を奉納させていただきました。
79年前のあの日、前身諸学校の多くが損壊や全焼し、学生・生徒・児童や教職員の尊い命が奪われ、また傷つきました。昨今、ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルとハマスの衝突で、爆撃や火災で瓦礫と化した街や、痩せ細り目が空ろな子供の映像を見るたびに、本学が理念の第一に掲げる「平和を希求する精神」のもと、私たち一人ひとりが平和の実現に向けて何ができるかを考え、行動を起こすことの重要性を改めて強く感じます。
その一歩として、本日、広島大学は、世界の主要大学の学長をお招きし、持続的な世界平和に向け大学の役割を議論する「第1回平和学長会議」を開きます。人類史上初の原子爆弾の惨禍から不屈の精神で再生した広島の地こそが、最初の開催地として相応しいと考えています。そして大学には、紛争やSDGsなどの課題を理性と対話によって解決できる人材、すなわち、多様な視点と深い理解力を備え、世界平和に寄与できる人材を育成する責務があると考えています。
広島大学は、原爆投下から4年後の1949年に開学し、今年75周年を迎えました。昨年から「75+75周年事業」としてさまざまな事業に取り組んでおり、昨年11月には俳優の吉永小百合さんを東広島キャンパスにお招きして原爆詩の朗読会を開きました。500人もの聴衆の多くが魂を揺すぶられ、終わりに「絶対に! 絶対に! 核兵器は二度と使われてはいけません」と訴えられた言葉は今も心に深く刻まれています。
本学の前身校の一つに、広島県立医学専門学校がありました。原爆投下前日の8月5日に開校しましたが、その日のうちに教職員や学生らは、高林坊へ疎開したため、難を逃れることができ、これはまさに奇跡とも言えます。先日その1期生の福井敬三さんや2期生の岸槌昭夫さんから、当時の貴重な話をお伺いできました。今後は本学の被爆に関する大変重要な資料の一つとしてまとめ、後世に伝えていきたいと思います。
あの日はますます遠くなり、記憶の風化が懸念されます。被爆を経験した本学の責務は、平和のために何ができるか考え続け、前進することです。これからも自由で平和な国際社会の実現と、人類の幸福への貢献に引き続き積極的に取り組んでまいります。100年後にも広島大学は「平和を希求する大学」の使命を担い続けていくことを、今ここに改めてお誓い申し上げ、追悼の辞といたします。
令和6年(2024年)8月6日
広島大学長 越智光夫