令和6年度 入学式

学長式辞 令和6年度入学式 (2024.4.3)

 広島大学に入学された4,067人の皆さん、おめでとうございます。
 2019年から4年余りにわたった新型コロナウイルス感染症のパンデミックもようやく沈静化しました。きょうの佳き日に、新入生の皆さんやご家族の皆さんを一堂に会してお迎えできますことを、学長として、また、広島大学同窓生の一人として何よりうれしく思います。それと同時に、これまで皆さんを支えてこられたご家族をはじめ関係の方々に対する感謝を忘れず、持ち続けていただければと願っています。

今から半世紀以上も前になりますが、私は愛媛県から広島大学医学部に入学しました。当時はまだ大学紛争の名残がくすぶる中、見知らぬ街で期待と不安で過ごした日々が、昨日のことのように思い出されます。皆さんもきっと、あの時の私と同じような気持ちを抱かれていることと思います。皆さんの学び舎となる広島大学が、どんなに素晴らしい大学か、手前味噌になりますが簡単にご紹介します。

まず、長い歴史の上に立っていることです。広島大学は人類史上初の原爆投下から4年後の1949年に開学し、今年は75周年を迎えました。しかし実は、広島大学には75年の前史があるのです。広島高等師範学校、広島文理科大学など9つある前身校のうち最も古い白島学校の創立は、明治維新から6年後の1874年にさかのぼります。まさに皆さんは、記念すべき75+75=150年という節目の年に、新たな大学生活の一歩を踏み出されることになります。

第二は、「平和を希求する精神」を脈々と受け継ぎ、発展させている「平和の大学」であることです。戦争、核問題、環境、飢餓、貧困などをテーマに自ら考える「平和科目」を学部生全員の選択必修とし、平和のために何ができるかを考えてもらっています。

第三は、12学部4研究科1研究院を擁する全国屈指の総合研究大学であることです。中でも、本学の「持続可能性に寄与するキラルノット超物質拠点」は、文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に、そして「ゲノム編集先端人材育成プログラム」は、卓越大学院プログラムに選ばれました。いずれも中四国では、広島大学しか採択されていません。世界中の気鋭の研究者が集合し、地球を救う最先端の研究開発に取り組んでいます。

第四は、多様性と国際性に富む学びの環境があることです。先程、国歌独唱いただいた中丸三千繪さんを含め、科学、芸術、スポーツ、ビジネスなど各界で活躍するリーダーの方々が、新入生の皆さんの前で特別に講義してくださる「世界に羽ばたく。教養の力」が、今年も来週から始まります。一方、英語コミュニケーション能力を示すTOEICスコアは、海外大学に行ける基準とされる730点以上の学生が広島大学全体で22%、医療系では41%に達しています。また、費用の一部を大学が負担する短期から中長期の幅広い独自の留学プログラムも充実しています。在学中に語学スキルを存分に伸ばしてください。

さて世界に目を向けると、ロシアによるウクライナ侵攻は2年を超え、イスラエルとハマスの衝突も間もなく半年になろうとしています。民主主義の試練に加え、気候変動や地震、台風などの自然災害も頻発するなど、皆さんを待ち受ける未来は混沌としていると言わざるを得ません。しかし、そういう時代だからこそ、専門知識とともに幅広い教養を身に付けた皆さんを世界は待っています。

儒教の経典である「四書」の一つ「中庸」に、次のような一節があります。「博(ひろ)く之れを学び、審(つまび)らかに之れを問い、慎んで之れを思い、明らかに之れを弁じ、篤(あつ)く之れを行う」。答えそのものを求めるのなら、現代では対話型AIが即座に模範解答を用意してくれるでしょう。しかし、学びに始まって問い、思考し、弁別し、実行する-という、自分の頭と体を動かす一連のプロセスこそが人として重要で、人にしかできないことなのです。

大学で学ぶということは、与えられた問題の正解をたやすく見つけることではありません。実際の社会では、問題に対する答えが幾つもある場合や、時には解決策のないケースさえあります。そのような難しい社会課題に対処するには、how(どのように解くか)だけでなく、日頃からwhy(なぜそのような問題が生じるのか)を自ら問い、歴史的な背景なども含めさまざまな角度から考える習慣を身に付けていただきたいと思います。

まずは自分が本学で何を学びたいかをじっくり考えることから始め、古今東西の古典をはじめさまざまな書物をひもといてください。そして、課外活動などを通じて生涯の宝物となる友をつくり、多くの先輩や先生方と語らいながら、さまざまな事に積極的にチャレンジしていただきたいと思います。

今日から広島大学は皆さんの母校です。広島大学はあらゆる面で皆さんを支援いたします。自信と誇りを持ってチャレンジしてください。大学での日々が実り豊かなものになることを心よりお祈りして、私からのお祝いの言葉といたします。
 

 

令和6年4月3日
広島大学長 越智光夫


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