年頭挨拶 (2025.1.6)
あけましておめでとうございます。2025年、令和7年の新春に際し、一言ご挨拶申し上げます。
本年は、広島・長崎に原子爆弾が投下されてから80年の節目を迎えます。「75年草木も生えない」と言われた広島の街は、この80年間で驚異的な復興を遂げ、国際平和文化都市としてその名前が世界に知られるようになりました。そして、この間、戦争において核兵器が使用されなかったのは、被爆者の皆さまが、原爆の惨禍を自らの声で訴え続けてこられた事の賜物にほかなりません。
昨年12月、日本被団協(日本原水爆被爆者団体協議会)がノーベル平和賞を受賞したことは、国民のみならず、世界にとっても大きな喜びでありました。しかしながら、未だ世界には約1万2000発もの核弾頭が存在し、国際社会は混迷の度を深めています。核の脅威は増大し、人類はまさに存亡の瀬戸際に立たされていると言っても過言ではありません。このような時代だからこそ、私たちは平和への誓いを新たにし、次なる未来へと歩みを進める責務があります。
広島大学は、原爆投下から4年後に開学し、「平和の大学」としてその使命を果たしてきました。私は学長就任以来、「平和を希求し、チャレンジする国際的教養人の育成」を掲げ、その理念に基づく教育と研究を推進してまいりました。本年は、その理念が問われる重要な年になると思っております。
昨年8月には、アジア、アメリカ、ヨーロッパから10大学の学長らが参加し、初の「平和学長会議」を開催しました。また、11月にはアフリカから5大学・キャンパスの学長らを迎え、第2弾となる「平和学長会議-アフリカ・チャプター」を開催しました。これらを通じて、広島の地で被爆の実相を学び、平和や持続可能性に貢献する次世代のリーダーを育成する仕組みが整いつつあります。
さらに、かつての広島の学都を象徴した被爆建物でもある「旧理学部1号館」が、広島市、広島大学、広島市立大学や広島平和文化センターとの連携により、「平和に関する知の拠点」として保存・活用されることが決定しました。霞キャンパスにおいても、2026年度に比治山の放射線影響研究所が霞キャンパスに移転し、原爆放射線医科学研究所との連携による研究の深化が期待されます。
2年にわたる75+75周年記念事業では、117件もの多彩な行事を開催し、約12万人の方々にご参加いただきました。俳優・吉永小百合氏による原爆詩朗読会やフラワーフェスティバルへの参加など、広島の皆さまへの感謝を表すとともに、平和への思いを共有する貴重な機会となりました。これもひとえに教職員、学生の皆さんの尽力の賜物であり、心より感謝申し上げます。
一方、広島大学は国内有数の総合研究大学として、新たな研究拠点を築きつつあります。2022年度には「持続可能性に寄与するキラルノット超物質国際研究拠点」が「世界トップレベル研究拠点プログラム」に採択され、さらに一昨年は「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」への採択も受けました。本年は、これらの新たな挑戦を具現化し、未来を切り拓く年といたします。
現代は「VUCA(不確実・不安定・複雑・曖昧)」の時代と呼ばれますが、こうした時代だからこそ、失敗を恐れず挑戦する精神が未来を創る原動力となります。学生の皆さん、そして教職員の皆さんにはそれぞれの羅針盤をもって、果敢にチャレンジしていただきたいと願っております。
最後に、戦火が絶えない地に一日も早く平和が訪れることを心から祈念するとともに、皆さまにとって本年が希望に満ちた年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。
令和7年(2025年)1月6日
広島大学長 越智光夫