令和6年 年頭挨拶

年頭挨拶 (2024.1.4)

 あけましておめでとうございます。新しい年は、思いも寄らぬ痛ましい災害と事故で始まってしまいました。元日の夕方、石川県能登地方を震源とする最大震度7の大地震が発生し、多くの尊い命が奪われました。余震が続く中、避難生活を強いられている方々も5万人以上に上っています。翌2日には、地震の被災地に支援物資を緊急輸送する海上保安庁機と日本航空機の衝突炎上事故により、海上保安庁職員5人が亡くなられました。地震災害と航空機事故で犠牲になられた方々に謹んで哀悼の意を表しますとともに、被災地域の方々、また事故に遭遇された乗客の方々に、心よりお見舞いを申し上げます。

 本学ホームページに掲載しましたように、広島大学としても現在、地震で被災した地域出身の学生・教職員の皆様の安否確認を進めております。さらに医療チームの被災地への派遣や、現地への物資支援なども検討しているところです。被災地の一日も早い復興に向け、可能な限りの支援に努めてまいります。

 さて昨年は、世界の関心が広島に集まりました。5月に開催されたG7広島サミットでは、核保有国を含む首脳が原爆慰霊碑に献花し、平和記念資料館を訪れて被爆の悲惨さを目の当たりにしました。しかし、平和への願いとは裏腹に、ロシアの侵攻が続くウクライナ、イスラエルとハマスとの戦火とともに、世界は戦争の暗雲が垂れ込めています。一方、ChatGPTに代表される対話型生成AIの登場は、私たちの生活や仕事、学びを大きく変化させつつあります。

 国内に目を転じると、「政治とカネ」をめぐる問題に象徴されるように、いわゆるエスタブリッシュメントに対する「信頼」が大きく揺らいだ年でもありました。国立大学を取り巻く環境も、急速な少子化や運営費交付金の削減に加え、改正国立大学法人法の成立など、先行きに対する不安がさらに増しています。

 こうした中にあって、本学では未来につながる出来事も幾つかありました。法学部の東千田キャンパスへの移転、米国半導体大手マイクロン・テクノロジーと日米11大学による「日米半導体連携パートナーシップ」への参画決定、さらには取り組むべき5つの重点項目「5イニシアティブ-新しい平和科学(安全・安心を実現する「創る平和」)」の策定などが挙げられます。

 昨年暮れには文部科学省の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」で、本学が提案した「放射光による物質の視える化技術を核とした半導体・超物質及びバイオ領域融合型産業集積エコシステムの実現」が採択を受けました。そのほかにも「令和5年度大学・高専機能強化支援事業『高度情報専門人材の確保に向けた機能強化に係る支援(ハイレベル枠)』」に中・四国地域では唯一、採択されるなど、皆様のご努力のおかげで複数の大型事業を獲得することができ、必ずや研究力、教育力向上に繋がると確信しています。また、地域と連携して課題解決にあたる「Town & Gown構想」も、全国展開へ向けスタートいたしました。

 新しい年が明け、広島大学は創立75周年、最も古い前身校である白島学校の開設から150周年の節目の年を迎えました。11月2日、3日の記念式典に向け、卒業生や学生、教職員の皆様と共に、広島大学が築いてきた伝統や明るい未来を実感いただける盛りだくさんの事業を開催していきます。その事業の一つとして、昨年11月に開いた原爆詩朗読会では、俳優の吉永小百合さんが、まさに「魂の朗読」で被爆者の怒りや悲しみを表現されました。

 今月中旬からは学生の提案をベースにデザインした路面電車やバスが広島市内を走り始めます。さらに6月は大阪、9月は東京で本学の魅力をPRするイベントも開き、11月の記念式典ではフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏を招いての講演会も予定しています。

 米国の金融破綻や英国のEU離脱などを予言したことで知られるトッド氏は、歴史を学ぶことの重要性を次のように述べています。「適切なデータを収集し、きちんと分析すれば、過去から将来を見通すことは決して不可能ではない」。広島大学が歩んできた歴史を改めて振り返り、明るい未来に向けた新たな道を皆様とともに見つけていきたいと思います。

 私は、2015年の学長就任以来、3本柱である教育・研究・社会貢献の土台をしっかり構築することと併せ、本学の実力が正当に評価されるべく、レピュテーション向上の先頭に立ってまいりました。今年は、次の75年に向けた新たな出発点です。構成員の皆様と意見交換を密にしながら、「広島大学で学んで良かった」「広島大学で働いて良かった」と、心から思っていただける環境づくりに、より一層注力してまいります。

 150年間にわたり諸先輩が築き上げた歴史に学びつつ、日本の未来に取って広島大学はどうあるべきかを思索しつつ、学長としての職責に全身全霊で取り組むことをお誓い申し上げます。最後になりましたが、戦火が続く地において一日も早い平和が訪れ、そして日本の安寧を願い、教職員・学生の皆様、そしてご家族にとってより良き年となりますよう祈念いたしまして、年頭のご挨拶とさせていただきます。

 

令和6(2024)年1月4日
広島大学長 越智光夫


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