学長式辞 令和6年秋季入学式 (2024.10.1)
本日、広島大学に313人の皆さんを、新しい仲間としてお迎えできましたことを、学長として、また、本学の同窓生の一人として心よりうれしく思います。皆さんがこの良き日を迎えられたのは、ご家族をはじめ、先生やさまざまな関係者の方々のおかげであることを忘れず、感謝していただきたいと思います。
きょう入学された皆さんの中には、海外から来られた留学生の方もたくさんおられること思います。言葉も文化も異なる日本で学ぶのですから、期待とともに不安を感じられるのもよく分かります。私も30歳のころ、家族を連れて見知らぬヨーロッパの地で過ごした日々を思い出します。
今から79年前の1945年、9つあった広島大学の前身校のうちの広島文理科大学と広島高等師範学校には、中国やモンゴル、東南アジアから留学生21人が在籍していました。そして原爆が投下された8月6日、教室や寮にいた留学生8人が亡くなりました。生き残った留学生たちは傷ついた市民の救助に奔走したそうです。
その一人であったベンギラン・ユソフさんは戦後、ブルネイに帰り、初代首相となって祖国の発展に尽くされました。また、自らの被爆体験を多くの人に伝えられました。立派な先輩たちが築き上げた広島大学の歴史に、皆さん方も連なっていることを知っていただきたいと思います。
広島大学は原爆投下から4年後の1949年に開学しました。今や、国立大学最多となる12学部を擁し、約1万5000人もの学部生や大学院生が集う国内有数の総合研究大学へと発展しています。一貫して「平和を希求する精神」を理念の第一に掲げ、私も学長として「平和を希求し、チャレンジする国際的教養人」の育成に努めてきました。海外からの留学生数は96カ国・地域の1830人余りに上っています。
本学の3つのキャンパスをご紹介しましょう。この東広島キャンパスは、約250haの広大な敷地に、8学部と3つの大学院研究科、1研究院がある自然豊かなグローバル拠点です。一方、霞キャンパスは、医学、歯学、薬学の3学部と大学院医系科学研究科、大学病院、原爆放射線医科学研究所が集積し、相互連携による研究が進む医療人材養成拠点です。さらに大学発祥の地である東千田キャンパスは、昨年、法学部と大学院人間社会科学研究科の一部が移転し、法曹養成を核とした人文社会科学の拠点を目指しています。
最近は、文部科学省からJ-PEAKS(地域中核・特色ある研究大学強化促進事業)や「高度医療人材養成拠点形成事業」に採択されました。また、世界の大学をSDGsに基づき評価する英国の高等教育専門誌「THEインパクトランキング2024」において、本学は3年連続国内3位、世界1,963大学中101-200位に入るなど、本学の教育・研究力は国内外から高く評価されています。
中国・春秋時代の思想家・孔子と弟子たちの言行録である『論語』に「博く学びて篤く志し、切に問いて近く思う」という言葉があります。知識を深め、強い意志を持ち、常に疑問を持ち続けながら、学んだことを実生活に生かすことの重要性を説いています。春秋時代は諸侯が覇権を争う動乱の時代でした。世界各地で紛争が続き、混迷する現代においても、広く学び、自ら考えることで、未来への針路を示す羅針盤を身に付けることができると確信しています。
今年、広島大学は開学から75周年、最も歴史の古い前身校の創立から150年の節目を迎えました。11月2日と3日にはこのサタケメモリアルホールを主会場として記念式典とフランスの著名な歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏と国連事務次長の中満泉氏による講演会など多彩な記念事業を行います。ぜひ多くの皆さんに参加していただきたいと思います。
今日から本学の一員となった皆さんのために、広島大学は、安心して学べる環境を整えています。少しでも不安なことや困ったことがあれば、遠慮なく教職員や先輩学生に相談してください。人生を振り返った時、「広島大学で学んでよかった」と思っていただけるよう、本学は全力で皆さんを応援していくことをお約束します。
終わりに、今日から第一歩を踏み出される皆さんの大学生活が、実り豊かなものになることを心よりお祈りして、私からのお祝いの言葉といたします。
あらためまして、本日はご入学おめでとうございます。
令和6(2024)年10月1日
広島大学長 越智光夫