学部長からのメッセージ

遥かなるボローニャから広島へ―人類共通の智慧を学ぶ

 「法学」の源流は、遥か紀元前のローマ12表法に遡り、日本法は、8世紀の唐律にも学びました。11世紀には、世界初の法学部が、イタリア・ボローニャ大学に誕生しています。また、古代ギリシアにその起源を訪ねる「政治学」は、アリストテレスが「諸学の女王」と呼んだほど、歴史を持つ由緒正しき学問です。これら伝統的学問を踏まえながら、「社会学」は、近代のまなざしから、実証科学の方法を用いて、社会の諸相を問い直してきました。

 広島大学法学部では、こうした歴史を踏まえながら、実際の社会生活に役立つ多くのルールと、根拠となる「法律」を学びます。その窮極には、法律を生み出す「国のかたち」や「政治」が、さらには「政治」を支える「社会」があります。例えば、ある法律の欠陥を考えたとき、むしろ、「政治」に理由があるのではないか、あるいは「社会」そのものに原因が胚胎しているのではないか、といったように、一つの事象を他の分野との相互関連の中で捉えることができます。私たちの法学部では、法学、政治学、社会学の3つの視点から社会に生起する様々な課題を読み解き、思考し、自分なりの意見を表明し、そしてそれを他者とのコミュニケーションの中でさらに発展させる力を養います。

 今日、高度にデジタル化した社会において、ただ単に過去の知識を収集し、まとめるようなスキルは、既に大きな意味を持たず、今後は、自律型AIの発展によって、法律家の役割すら減衰していく可能性があります。では将来の社会は、ほとんどAIの言いなりとなるのでしょうか。人間のレゾン・デートル(存在意義)とは何なのでしょうか。それを考えるには、これまで法学部の学問を支えてきた諸先学の英知に学びながら、より深く物事の本質を追究する多角的で強靭な思考力が必要です。様々な困難に直面する現代社会の問題を解決し、持続可能な世界に貢献していくために、歴史に鍛えられた人類共通の智慧を学ぶ意義は、益々高まっているのです。
 

法学部長 吉中信人 教授


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