第28回  学び続けることで期待に応えよ

 3月23日に学位記授与式が行われました。その挨拶を掲載させていただきます。

 皆さん、法科大学院修了、誠におめでとうございます。
 皆さんが、法曹を志して、本研究科に入学されて以来、日々怠ることなく勉学を重ねてこられたことの証しであります。皆さんを支えてこられた方々にとりましてもお喜びのことと存じます。
 法科大学院を修了することは,皆さんにとっては,全国レベルでの戦いの場に立つことを意味するにすぎません。法曹の資格を手にするには少なくとも司法試験と2回試験をパスする必要があります。初志貫徹できるか否かは才と徳を身につけられるかどうかによって決まると思います。才と徳は,自らを陶冶する強さと,他を思い起こす思慮深さから生まれ,才は研ぎ澄ますことによって,徳は積み重ねることによって,その力を発揮します。才と徳は,試験問題と対峙するときも,クライアントが相談案件を持ち込んでくるときも,冷徹だが智慧のある解決を導くのに不可欠であるだけではありません。それらを身につける研鑽のプロセスで得られたものがその解決への途を拓き、皆さんは自信を持って歩むことができます。
 法曹は専門職です。2つの試験を乗り越え独り立ちしても、プロフェッショナルとして活躍するには一層の学びが必要です。1つの相談を解決することがそこに収まり留まることなく、そこからより多くの知識と経験を自らの努力で獲得し、将来きたるべき相談により充実した対応をなしうるよう備える「学び」が求められます。本研究科においてプロフェッショナル性を修得する方法として身につけた、知性の錬磨法と反省の技法に精励することで、その「学び」は支えられるはずです。プロフェッショナルな法曹として一人のクライアントに納得づくの法的アドバイスを授けることができる方法が,皆さんにとって貴重な宝物となるようであれば,この上ない喜びです。
 科学技術は新たな発見の積み重ねによって次々と飛躍的な進歩を続けます。しかし,人はおそらく自らが学び続けないかぎり後退するものです。皆さんは法曹としての職責を全うすべく前進し続けることを期待しております。
学び続けることは素直さと謙虚さを要します。これは、才を研ぎ澄まし、徳を積むことにつながります。これらによって、法曹としての職責を果たし、紛争を解決・予防することで、身近な平和の構築を目指してください。
 「学び続けることで期待に応えよ」を、皆さんへのはなむけの言葉として贈ります。
 法科大学院修了、おめでとうございます。

 今更、これに説明を加えるのも下手ではありますが、「才と徳」「素直さと謙虚さ」「学び」の関係がよくわからないと聞きましたので、言葉を足しておきます。
 「才」と聞くと何か特別な能力のように考えるようですが、「努力すること」「努力を継続すること」も「才」です。法曹になると決めるなら努力するのも当たり前ではないかと考えられるかもしれませんが、勉学に努力するという能力を顕在化させ自らの資質としたうえでその力を十分に発揮できる学生を見ることが少なくなったように思います。いずれかの段階かで躓いています。何となく勉強すればそれなりの結果が伴ってくるので、もっとやればどうなるのかを探らず、やらないことで生まれた時間を別のことに費やしてしまう、研ぎ澄まされることがないために、自分のなしうる努力をなしたときに成し遂げられる成果を目にすることなく日々を送っています。
 「徳」は懺悔と感謝をもって神仏をはじめ他に奉ずることで生まれます。何かを目指して努力していると「自分だけ」という思いに陥りやすいのですが、他を思い起こすことによって、自分一人で今があるわけではない、他に支えられていることに気づけば、それに対する感謝が生まれ、他の気持ちに応えられているのかを反省することにもなるでしょう。才を活かして努力を継続する勇気を感謝と懺悔が与えます。これも一つの徳です。
 努力はその方向が正しくあってほしいものです。方向性を正すには独りよがりではなく、先人の知恵や知見を得る学びが必要です。学びには、謙虚に他に教えを乞い、その教えを素直にいったんは受け取ってこそ、自らにおいてその教えを活かしていくことにつながります。その教えを自分にあてはめてみて客観的に冷静にそれが自らに有益であるのかを考え、わからなければ試してみてその経過を見る、自らにプラスになれば幸運ですし、プラスにならなくともその教えが現在必要ではないという判断と、将来に役立つかもしれない知識とを得ることにはなります。
 研究の成果を教える職に就いてから常に思うことは、今目の前にいる学生の潜在的な能力を自分が1つでも学生自身に気づかせているのか、それを引っ張り出してその学生の将来を拡げることができているのかを反省し、逆にそれを邪魔しているのではいないのかを恐れ、何か役に立てることはないか、そのために学び続けなければならない、それができなくなれば教壇には立てないということです。かなりきつい葛藤に悩まされます。

 次回は、「体系化」です。


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