第30回  もう一つの留意点

 新入生の皆さんには,法科大学院において法曹を目指し勉学に励むにあたって,2点,留意してほしいことがあります。

 一つは,前回に述べました「体系化」です。これは知識と知識とをつなぎ合わせることで,その関係性から全体をあるいは背後にあるものをつかむのです。これには思考のトレーニングが必要です。それは、ある考えを具体的なレベルで当否を検討し、その考えを抽象的なレベルに昇華させることを繰り返すことです。

 おそらく、哲学を、知識の集積として覚えて済ますのではなく、主体的に思考方法を実修する学びの場として考えて「遊ぶ」ことが有効であろうと思います。まさに身に修めて教養とするというところでしょうか。

 もう一つは「振り返ること」です。時々、自らの学びを振り返って、この学びは何を目的としているのか、その目的に学びの手法が適切に合致しているのか、自分にとって最適なものへとさらに改善する余地はないのかを考え、自らの学びを見つめ直すことを日課とすることです。

 基本・基礎にあたる知識が正確さを欠くという弱点があるのであれば、その日のうちに、基本・基礎を勉強した自らの手法を思い起こし、正確さにいかに取り組んでいるのかという観点で検証します。例えば、ある概念につきその定義が重要であると考え、正確な定義を単なる知識として定着させる場合、基本書等から定義を取りだし、そのすべてを記憶しようとするのでは足りません。事例を解決するのにその概念を用いるため、その定義から思考をスタートさせようとした際に、記憶からこぼれてしまう点が出てきます。

 それを避けようとすれば、その定義の正確さがなぜ求められるのか、特にどの点がより正確でなければならないかを問うという意識づけがなされた学修姿勢が必要です。この問いに答えてくれるのは基本書であり、裁判例であり、演習問題でしょう。さらに、正確さが求められる点の認識力、あるいはそれに自分で気づけるようになる分析力を獲得するには、基本判例や基礎問題の反覆学習による深い理解が重要です。その反覆で定義の使い方を学ぶのです。正確さや重要性の判断は定義を使うことによって磨かれ、知識を正確に理解し整理することができます。

 この作業を学生の皆さんに委ねるのは意外と難しいようです。そこで、この選択・判断のプロセスを知識の授受の際に取り込んで使える状態に近づいたレベルで知識を整理させる授業が必要となっています。論理的思考のプロセスをモデルとして見せ、一緒に考える機会を提供して、言わば単なる情報を、真に使える知識に変化させることを学ぶのです。

 振り返りは授業そのものにも使えます。授業の冒頭から最後までを再現することにより教員の言い回しや表情といったものを含めて授業内容を再分析することにより、非常に多くを学ぶことができるはずです(他人の心理状態も観察により理解でき、次の行動も予測できるようになり、先回りができることもあります)。高い集中力が必要ですが、これも授業の振り返りを癖にすれば身についてきます。録音という手もありますが、緊張のなかでの集中を促すことができない点が難です。ここというときに自分の力で最大の学びを得ることができず、悔しい思いをするでしょう。取り返しがつかずにそのまま後塵を拝することとなってしまうかもしれません。

 まだ自由に学べるときに、最大限の収穫を得られる姿勢を身につけ、その方法も手に入れるべきです。頑張りましょう。

 次回は「固定観念」です。


up