第31回  固定観念

 広島大学大学院法務研究科は、現在、教育システムを抜本的に見直し、教育内容・方法(統合型教育プログラム)を徹底して指導することで教育効果をより一層高める学習環境を整えています。本研究科の専門職大学院としての成果は、これまでのところ一定の評価を得るに値するところですが、「あるべき姿」に照らせばなお期待されるところは大きいと思います。

 4、5年前から、本研究科は教育の改善工夫をいろいろと試みてきましたので、それなりの変化の兆しは生まれました。しかし、昨年度の司法試験の結果を見たとき、尋常の改善工夫では足りない、一から組み立て直すくらいの改革が必要であると感じました。

 そこで、神戸大学法科大学院との教育連携協定を結び、学びの場を設けたのです。本研究科の現状を包み隠さず明らかにし、神戸大学法科大学院の教育実践から得られたノウハウの提供を受けて、抜本的な改革に昨年度から取り組んでいます。

 教育改革の一つの成果として、今年度から新カリキュラムがスタートしました。新カリキュラムの特徴は、①インプット系科目とアウトプット系科目とを1セットとして反復学修を徹底強化すること、②特に2年(既修者)コース新入生に対して、法科大学院での学修のあり方や手法を重視しスムーズに学修を深められるよう繋ぎ科目を設置すること、③本研究科院生一人一人の学修到達レベルに応じ、基礎基本をより深く理解し活用できる、あるいは既修得の法的知識から法的思考を発展させる重点演習を開講すること、④受講生の学修到達レベルをきめ細かにチェックし、丁寧な個別指導を行うことができる4学期制を、原則として採用したことなどです。

 第1学期があと1回の授業を残すのみとなっています。特に新入生向けの繋ぎ科目がどのような教育効果を生み出しているか、さらに生み出していくのかは十分な検証がなされなければならないでしょう。何とか学修法の基礎を意識して、記憶にばかり頼らずに自分で考えて論理的結論を導く方向に、学びの糸を紡ぐことができていればよいのですが・・・。

 個人的な感想としては、教員側において、授業デザイン等をかなりしっかりと構築し、内容的な凝縮度を高める努力をし、それを伝える手法を工夫する必要があると思います。新カリキュラムの下での授業は、受講生の集中力はもちろんですが、教員の授業技量の飛躍的な向上も求められます。

 教育システムであれ、教育内容や手法であれ、個々の教員の教育技量であれ、その改善は、もっとより良くすることができないかを追求し続けることですので、ここまでやれば十分と言うことはないでしょう。本研究科改革もあるべき姿を実現することを目指します。ただ、あるべき姿も、固定観念ではなく、本研究科の教育レベルが少しでも高まれば、創造的思考が柔軟に維持され想像の質が高まることで、より理想的なものへと変化していくでしょう。教育内容や方法も、それがオーソドックスで常識的なものであっても、その検証や新たな手法の試行をせずにいれば、自らの単なる思い込みにすぎないことに気づけず、飛躍的な変化の機会を失います。少なくとも受講生は、毎年、変わっていることは明らかです。受講生の変化が教育の場に何らの影響も及ぼさないと言うことはできないでしょう。

 現在のデータを分析し析出した問題が一応解決したとしても、それが教育改革のゴールではないのです。本質を見失うことのない改善工夫がこれまでよりもどれだけ教育の質を向上させたのかを追求し続けることが組織目標となれば、これ以上に強い教育組織はないのではないでしょうか。

 次回は「平成31年度入試の変更点」です。


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