第67回 考えることを思い出させるプロセスの重み

法曹への学修を指導するにあたって、「答案はどのように書けばよいのでしょうか」との質問に悩まされることがしばしばあります。

「答案は問題事例を法的に解決するプロセス論理的に文章化して、コミュニケーションする道具なのではないですか?」と逆に質問すると、「そうなのですけど、論理的な文章を書くというのが苦手で、どうすればよいのでしょうか?」と更なる質問が戻ってきます。

そこで、「あなたが書く文章はあなたが考えたことですよね。僕らの身体が食べたものからしか作られないのと同じで、健康を維持したければそれに必要なものを適切に摂取するほかないでしょう。あなたの考えるプロセスが論理的であれば、それを表記した文章も論理的なはずでしょう。」と答えると、「そうなんですか。でも、もともと論理的に考えるのが苦手で・・・。」と返されます。

「であれば、答案の書き方の問題ではなく、日頃の勉強の仕方が問題なのでしょう。」と応じると、「合格に必要な知識はそれをまとめた本を使って頑張って覚えているし、演習問題でそれを使う練習もしています。だから、大丈夫なのではないですか?」ときます。

「その本というのは趣旨や規範がまとめられていたり、これが出ればこう書きましょうという論述がブロック化してあるものとかかい?」「いわゆる基本書とか、概説書とかを読むことはないの?」と続けざまに問い返すと、「基本書とか分厚い本を読むのは苦手で・・・。まとめ本でよくわからないところがあったときに辞書的に関連する箇所を読むことはあります。どうせ基本書を読んでもよくわからないし、通読しようとすると、今読んでいることを理解しても、次に進んだ時には忘れるし、いつまでたっても進歩が感じられないので、合格に必要な知識を覚えていく方が自分には向いていますから。」との返答です。

「その勉強法が向いているという判断はどこから?」と問うと、「これまでの受験勉強はいつもそうでした。塾で勉強すればテストで高得点を取れましたし、それで大学にも合格したので。」だそうです。

「どうやって覚えているの?」と聞けば、「一つひとつ正確に覚えるのは大変だけど、これで合格できるのであれば、数学の公式のようにそれを覚えていれば数値を当てはめさえすれば答えが出るんだから、頑張って暗記しています。」と。

「他人が考えたことを覚えなきゃならないので、大変なんじゃないのかね。それを考えた人とあなたとは違うから、どうしてそう論じるのかがわからない、だから丸暗記せざるを得ないね。」と言うと、「もちろん、理解しようとはしますが、理解できなくても覚える、それは慣れています。英単語でも数学の公式でも皆意味もわからずに覚えてきましたから。これをやれば合格できるといわれればやります。大学でも先生のレジュメとかを覚えて期末試験とかでそのまま書けば単位はもらえましたし、それを否定されることもなかったです。」って。

次回へ続く

 


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