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苦しい時ほど初心を忘れず、目標に向かって走り抜けよう。

大本卓志法律事務所 弁護士
濱野 滝衣さん

大阪市立大学法学部卒業後、地元・広島にUターン。実家の飲食店手伝いを経て、広島大学法科大学院に入学。2010年に同大学院を卒業後、一昨年に念願の弁護士資格を取得。現在はロースクール時代の同級生が主宰する弁護士事務所で、法曹の仕事に携わるかたわら、「弁護士の存在をもっと身近に感じてほしい」という思いから、広島のテレビ番組でコメンテーターとしての活動も行っている。

法曹を志したのは、意外にも大学を卒業してからだという濱野さん。社会に出てから、彼女が将来に関する重大な決断を下したのは、「身近に相談できる弁護士がいない」と嘆く、中小企業の経営者たちの声を直接耳にしたからである。しかし一念発起してロースクールに入学したものの、卒業後の合格リミット5年、受験チャンス3回までの間に同期生が合格していく中、弱点の洗い出しと、その修正に多くの時間を費やしてしまい、弁護士に至る道のりは厳しいものとなった。実際、濱野さんが弁護士バッジを手に入れたのは、タイムリミットの間近で、まさに背水の陣での資格取得であった。現在は弁護士の仕事はもちろん、広島ホームテレビの夕方の番組「Jステーション」においてコメンテーターを務めるなど、活動の幅を広げている。「気軽に相談できる弁護士として人々の力になりたい」という初心を大切にしている濱野さんの法曹に懸ける思いを尋ねてみた。

背水の陣で手に入れた弁護士バッジ。 時間がかかった分、弱点も見直せた。

Q. そもそも「法曹」という仕事を選んだきっかけは何だったのですか?

濱野:大学卒業したての頃は、弁護士になろうとは思っていなくて、地元・広島に戻ってきてからは、数年間、実家の飲食店を手伝っていました。お店の周りは、製造業の下請けを行う中小企業が多く、常連さんにもそうした会社の社長さんがたくさんいらっしゃいました。ある時、そんな常連さんの取引契約に関する愚痴を聞いていると、素人ながらにも「それは前もって、法的な知識を身に付ける必要があるのでは? 誰かアドバイスしてあげる人はいないのかしら?」と思うことがしばしばありました。
しかし、お客さんにしてみれば「弁護士は敷居が高いし、費用も掛かる」とのこと。気軽に相談できる人が周りにいないのです。それなら、私が弁護士になったらどうだろう、私が彼らの身近な相談者になろうと思ったのが、法曹を目指すきっかけとなりました。

Q. 大学を卒業して数年後の出発ですが、勇気が必要だったのではないですか?

濱野:向こう見ずだったのです。決心してからずいぶん苦労しました(笑)。
当時、司法試験の受験資格はロースクール卒業後5年以内、3回までという制限がありましたが、私が合格したのは5年目の3回目。まさに背水の陣でした。何に苦労したかというと、自分の弱点の洗い出しと、その修正にすごく時間がかかりました。でも苦労した分、弱点を徹底的に強化できたのは良かったと思います。弁護士としてスタートしてからも、そこは大きな自信になっていますね。
また、先に司法試験を突破したロースクールの同級生たちが、答案の採点をしてくれたので、今も頭が上がりません。

Q. 司法試験への挑戦を考えている後輩たちへ、アドバイスはありますか?

濱野:受験期って、やはりつらいんですよ。しかもなかなか合格できないと、自分の将来はどうなるのだろうと弱気になることもあります。私も自分の精神状態を常にフラットに保ち、なるべく浮き沈みを生じさせないよう心掛けましたが、それは振り返ってみると、精神的な成長にもつながっていると実感しています。今のつらさは未来につながる大切なレッスンだと思ってほしいです。
それに弁護士は、資格を取ってからが勝負! 日々、大変なことばかりですが、一つ一つ克服していくしかありません。そんな時こそ、受験期に培った精神的な強さが大きな助けとなります。ぜひ、大いに悩んで、大いに成長してください。

弁護士が向き合うのは、法だけではなく人。 想像以上に人間臭い仕事。

Q. 仕事をする上で心掛けていることや、モットーにしていることはありますか?

濱野:実際に弁護士になって感じるのは、この仕事はつくづく“人と対峙する仕事”だということです。人というのは依頼者をはじめ、裁判所の方であったり、相手方であったり、あるいは相手方の代理人だったりと、弁護士業務のほとんどが人と接する仕事と言っても過言ではありません。
ですから、人と接した時に、その人がどういう人であるのかということに思いを巡らせ、その方にあった距離感や間合いで話すよう、心掛けています。自分のペースではなく、相手のペースに合わせることを大切にしたいと思っています。

Q.「法」というよりは「人」と向き合っている感じがありますか?

濱野:弁護士の仕事そのものは、意外に人間臭い仕事なのです。でも、多くの方が敷居を高く感じているというか、遠い存在のように感じています。もう少し身近な存在として認識してほしいですし、そうあるべきだと思っています。
実は今、広島のテレビ局で、ニュース番組のコメンテーターとして出演しているのですが、それも弁護士という仕事をもっと身近に感じてほしいという思いから、お引き受けしました。テレビを通して、敷居が高いと思われがちな弁護士を「あれ、けっこう身近にいる人たちと変わらないな」という感覚で見ていただけたらいいなと思っています。そうした理解が広まれば、ちょっと相談してみようと思う方も増えるかもしれません。まず、困りごとを気軽に相談できる場所があるということを知っていただきたいのです。

Q. テレビでコメントする際も、「身近な存在」を意識されているのですか?

濱野:あまり堅くならず、構え過ぎず、自分なりの個性がにじみ出るような、ナチュラルな話し方ができればいいなと思っています。テレビの向こう側には、いろんな方がいらっしゃいますので、ニュートラルな話し方となるよう心掛けています。

バッジを持っている以上、一人のプロ。 性別も、年齢も、関係ありません。

Q. 女性が働く場所として、弁護士を取り巻く環境はいかがですか?

濱野:男性に比べると女性弁護士の数は少ないのですが、だからといって、やりにくさを感じたことはありません。職業柄でしょうか、女性の活動にも配慮してくださる方が多いので、どちらかというと、弁護士の世界は働きやすい環境です。
これまで女性弁護士として活躍されてこられた先輩方の努力もありますが、そもそもこの世界では、バッジを持っている以上は一人のプロ。女性であろうが、新米弁護士であろうが関係ないのです。他の業種に比べると、女性にとってはかなり開けた職場なのではないでしょうか。

Q. ワークライフバランスについてお聞きしたいのですが、やはり忙しいですか?

濱野:まだ弁護士になって2年目ですので、調査など一つ一つの仕事に時間を取られがちです。裁判所が開いている時間は、裁判所にいることも多いので、書面の作成などはだいたい夕方から「さあ、始めようか!」といった感じです(笑)。そうなると、かなり遅くまで仕事をするようになりますね。でも、せっかく苦労してなった弁護士の仕事に嫌気が差してもいけませんので、あえて意識的に仕事から離れて、プライベートも楽しみます。
仕事量は時期によって波があり、年中忙しいわけではありませんし、これ以上は無理だと思えば、新件を受任するのを控えておくこともできます。そこは弁護士の仕事の良いところですね。ある程度は、仕事のペースを自分でコントロールできます。

Q. これからの仕事について、どのようなビジョンをお持ちですか?

濱野:離婚案件などの家事事件では、女性の場合、女性弁護士に依頼したい方が多いため、家事事件の経験をさらに積みたいと考えています。刑事事件においても、性犯罪などはやはり女性弁護士のニーズが高いですね。依頼者の気持ちにしっかり寄り添えるように、そうしたニーズには意欲的に応えていきたいと思います。
弁護士としてのビジョンについては、キャリアを重ねるうちに自分の色が、自然とにじみ出てくるのではないかと考えています。やはり興味のあることは深く掘り進めていきますので、「あの先生、こういう案件が強いよね」というカラーが出てくるのだと思います。

試験のためではなく、 法のプロフェッショナルとしての 知識を手に入れてほしい。

Q. 広島大学の法科大学院に通ってみていかがでしたか?

濱野:広島大学の法科大学院は、先生と学生の距離がとても近いですね。分からないこともすぐ聞ける親密感が魅力で、先生方も親身に指導してくださりました。そういった環境の中で自然と理解が深まり、身に付いた知識はとても内容の濃いものでしたので、確実に自分の血となり、肉となり、今の仕事に生きています。
学生同士のつながりも深く、つらい受験期を互いに励まし合いながら、共に乗り越えることができました。卒業してからも、そうした仲間の存在は大きな励みとなっています。同期の仲間だけでなく、広島弁護士会には、同窓生がたくさんいますので、自然と連帯感が生まれ、仕事面でも協力し合える関係が構築しやすいのも魅力です。私の場合、大学は大阪でしたが、地元で働く上で、地元のロースクールを選んで、本当に良かったと感じています。

Q. 予備校という選択肢もありますが、法科大学院を選ぶメリットは何でしょう?

濱野:大きな違いは得られる知識の深さだと思います。法科大学院の場合、先生方は各分野のエキスパートですので、法の背景にあるものを含めて、知識を得ることができます。「試験ではこの辺りまで知っていれば十分だよ」という浅い教え方ではないので、なぜこういう法律が生まれたのかというプロセスまでさかのぼって学べます。そうした造詣の深さは、複雑に入り組んだ問題を扱う上で、決して無駄な知識ではないのです。納得のいく決着を得るには、浅い知識では到底太刀打ちできないと思います。

Q. 最後にこれから法曹を目指される方にメッセージをお願いします。

濱野:どういった経緯にしろ、誰もが「法曹になりたい」という強い思いがあるはずです。その思いが生まれた瞬間が全ての始まりで、その思いを忘れないでほしいと思います。司法試験に合格するまで、いろいろな困難が待ち構えていますし、試験を突破して弁護士になってからも、大変なことはあります。でもそんな時こそ初心を思い出し、自分が掲げた目標に向けて走り抜けてほしいです。

2017年8月4日取材
取材場所/広島大学法務研究科長室、大本卓志法律事務所


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