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自分に嘘をつかず司法試験を乗り越え個性を活かした検察官に

新潟地方検察庁 長岡支部 支部長検事

片岡 純 さん

Q. 法曹という仕事を選んだきっかけと、検察官を選択された理由は何ですか?

小学校高学年頃に、映画で活躍する弁護士が格好いいなというふうに感じまして、弁護士に憧れるようになりました。
基本的には、以後弁護士志望は変わりなかったんですけれども、法科大学院時代に刑事系の科目を学んでいて、割と楽しいなという風に感じました。
検察官は、司法修習の際に検察修習という機会が一番実際の仕事のようなことをさせてもらえて、楽しいという風に感じたのと、刑事事件に関しては、検察官の立場が他の法曹に比べるとやはり多くの事件に関わることができますし、能動的に証拠収集できるという風に思って、検察修習の途中から検察官志望になりました。
 

Q. 法曹になって良かったこと、検察官という職務のやりがいと難しさをどう感じていますか?

月並みですが、自分が勉強してきたことを多少なりとも仕事に活かすことができるということかなと思います。
また、仕事上例えば犯罪の構成要件は何かとか、再犯しないようにするにはどうしたらいいかとか、目的が割と明確に定まっていますし、できることも刑事訴訟法や刑事訴訟規則で定まっていることがいい点かなと思います。
ゴールやアプローチの仕方が様々ある民間企業だとか、他の行政機関は、もっと大変だろうなという気がしています。
検察官の職務の難しさは、与えられている権限が大きい分、それが国民の権利に及ぼす影響も大きいことを肝に銘じて日々の執務にあたらなければいけないこと、ミスがすなわち他人の権利侵害につながってしまうので、ミスがないようにどう気を付けるか、チェック体制をどう構築すべきかを考えなければいけないという点に感じています。
また、事件を通じて関わった人のその後に積極的に関わって気にすることができないとか、異動時期や部署によっては担当事件を捜査の最初から判決確定まで担当できるわけではないという点も少し寂しい点です。
そのような中でも、事件関係者の方に感謝の言葉をいただいたり、一緒になって難しい事件に取り組んで、一段落した際に警察関係者などから感謝の言葉をいただいたりしたときに、やりがいを感じます。
また、やりがいの話とは違うんですけども、検察官の仕事は、たくさんの先輩、上司や同僚、このような方々に相談して、いわば組織力を生かしながら仕事をできるのが良い点だと思います。
 

Q. 担当案件の分野と印象的なエピソードを教えてください。

現在は、支部の支部長という決裁官としての業務が中心なので、一般刑事、交通、特別法犯を問わず、バラエティに富む多くの事件に関わっています。
自分が主任として事件を担当する場合と違った難しさはあるのですが、部下検察官5名の事件処理を通じて事件に関わると、単純に考えると自分一人で事件処理をする場合と比較して5倍くらいの事件に関わることができるので、その点はいい点かなと思います。
自分が主任の事件というのも別で数件抱えているので、それらも並行してちゃんと処理しなければいけないですし、検察官以外の職員も意欲を持って仕事をする体制作りにも気を配らなければいけないので、なかなか大変なんですけど、自分の経験値を上げていくことに繋がると前向きに受け止めています。
印象に残っているのは、若手検事の時代に、公判担当をしていた時に関わった特殊詐欺事件の被害者の方ですね。
受け子の被告人が犯意を否認していて、遠くにお住まいの被害者の方の供述調書が不同意になって、証人尋問に来ていただかなければいけないことになりました。それで私は一度その方のお宅に伺って打ち合わせをして、足が悪い方だったので、証人尋問の日には事務官が車で送迎して、その方に裁判所まで来てもらいました。私は、別の公判、他の数件の公判の合間に、裁判所の食堂で、その方とその日に顔を合わせたんですけども、その方は、それまでの不安なのか安心なのか、一度しか会っていない私の顔を見るなり、ぽろぽろと涙を流して、感謝の言葉をかけてくれたんですね。
私はその方のお金を取り戻すこともできなければ、その後の人生に関わることもできなくて、ただ法廷に出てもらって証言してもらうという、一方的に負担をかけるだけの立場で、感謝するのはこちらの方なのに、本当に恐れ多いことだなと、その時はさすがに胸が熱くなりました。
 

Q. 検察官として、社会にどう貢献していると感じますか?

毎日一件一件の事件に対して真剣に向き合って業務を遂行しているのみで、社会に貢献しているのかどうかを考えるということすらこれまでありませんでしたが、改めて考えると、月並みですけれども、何か刑事事件が発生したとしても、適正な捜査がなされて、その結果、適正妥当な処分がなされるという社会であること、それを日々の職務で担保していくということが、社会への貢献と言えるのではないでしょうか。
 

Q. 広島大学法科大学院で、学んで良かったと思うことはありますか?

実務家教員と研究者教員の方がチューターとなって面談等を通じて指導してくださるというのは、将来実務家になった自分を想像しつつ試験のための勉強をしたりとか、同時に理論的な深みを学んだりする上で、大変有意義だったと思っています。
私は自宅で一人で集中して勉強するのがなかなか苦手なタイプだったので、自習室の完備だとか、学生だけのゼミ、答案練習、そのための部屋の貸し出しというのも助かりました。
 

Q. 検察官の実務の中で、広島大学法科大学院で学んだ事が活かされていると感じられたことはありますか?

検察官の仕事をしていますと、様々な内部的な会議や日常業務の中で議論をするということが多いので、広島大学法科大学院時代に演習系の授業で多少なりとも議論に参加していたのは活かされているかなと思います。
 

Q. 検察官になれるのは、予備試験合格者や有名法科大学院出身者に限られるのでしょうか?

法務省がウェブサイト上で各年の検事任官者の出身法科大学院等を公表しているんですけれども、決してそのようなことはないのかなと思います。
なので、広島大学法科大学院の皆さんも、私や他の出身検察官に続いて、ぜひ検察官を志していただければなと思います。
 

Q. 法曹を目指す上で一番苦労したことと、司法試験を乗り越えるコツを教えてください。

なかなかゴールが見えづらいので、集中力とモチベーションを保つのに苦労しますし、誰しもそうだと思います。
ある程度の知識を習得したら、早期に司法試験の過去問に触れてゴールを意識するということが大事なのかなと思います。
集中力を保つということに関しては、私は試験の直前期にはネットサーフィンを絶つなどの手段を講じてなんとか集中力を保ちました。
それからコツというところで言いますと、私が広島大学の法科大学院の時代に教わった、とある実務家教員の方の言葉で覚えているのが、判例とか学説をやみくもに覚えようとするのではなくて、自分なりに納得して腑に落とすという作業をしなさいという言葉です。
いまいち納得できないけど、ただ言い回しを覚えようという風にしても、記憶としては定着しないのかなと思います。
その意味では、自分が納得できるかどうかというところについては手を抜かずにちゃんと突き詰めるという姿勢が大事かなと思います。
また、試験、特に論文等の作成については、自分で読み返して、説得的か、意味が通じるかといった点に留意することがコツなのかなと思います。
わざわざ他人に見てもらわなくても、自分で読み返して推敲するだけで、かなり文章の説得力は変わってくるのではないかなと思います。
総じて、自分に嘘をつかないというのが、司法試験を乗り越えるコツじゃないのかなと思います。
 

Q.検察官を目指す人へのメッセージを下さい。

法曹三者とも人を相手にする仕事なので、どんな方がどんな立場になってもその人の個性を生かせる場面が必ずあると思います。
特別な能力がなければ検事になれないということはありません。
真相解明への意欲がある人、犯罪によって社会に生じている理不尽な状態を少しでも正しい方向へ変えたいという正義感のある人などは、検察官に向いていると思いますので、ぜひ手を挙げてみてください。

片岡 純さん

インタビューを受ける片岡さん

新潟地方検察庁長岡支部の前で

片岡さんと野田専攻長(法科大学院長)

2025年9月12日取材
取材場所/新潟地方検察庁長岡支部


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