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法曹の活躍の場は想像以上に広く その内容も多岐にわたる

豊田通商株式会社法務部 弁護士
永尾 俊貴さん

広島大学法学部を卒業した後、広島大学法科大学院へ進学、その後司法試験に合格し、司法修習期間を経て、インハウスローヤーとして豊田通商株式会社入社。法務部で契約書の審査などの業務に携わるが、企業内にいることで財務をはじめ、ビジネスを多面的な観点から見ることができると感じている。休日にはランニングなどの適度な運動に取り組むとともに、業務でも使う頻度の高い英語学習にも励んでいる。
学生時代から企業内弁護士に関心を持ち、希望どおりインハウスローヤーとしての道を進んでいる永尾さん。その彼に企業内弁護士の仕事について尋ねてみた。

法務部では様々な業務を基本的に一人で対応するスキルが求められるので これ以上は自ら調べられないレベルまで十分な検討を行う

Q. 企業法務弁護士という仕事を選んだきっかけ

永尾:学部時代に図書館で企業内弁護士に関する記事を法律雑誌で読んだことです。その当時はインハウスローヤーというキャリアがまだまだ目新しいもので、そういった活躍の場もあるのだと印象に残っています。私が考えていた法律事務所で勤務するという弁護士像とは異なる働き方と異なる新しいキャリアパスを知り、法曹の仕事の多様性に興味を持ったことが、私が法曹を志すきっかけとなりました。

Q. 企業法務弁護士の職務の特色について、差し支えない範囲で教えてください。

永尾:訴訟のように既に起こった問題に対処するというよりは、いわゆる予防法務に重きを置いているところだと思います。例えば、契約書審査では、訴訟などのトラブルが起こらないように未然にどういう手を打てるかを想像しながら、対応方針を決定し、契約書にどういう条項を入れるかなどを考えるといったことです。実際に何か起こってしまったとしても、適切な専門家と連携しながら方針を決めることができる点では、法律事務所と違う特徴はあるのかなと思います。 

企業法務弁護士になって良かったと思うのは すごく会社に近い立場にいるなということを感じること

Q. 企業法務弁護士になって良かったことは何でしょうか。

永尾:この点はよく言われるところではありますが、私は企業内の法務部で勤務していますので、ビジネスに非常に近い位置にいることを実感できる点です。ビジネスの種の段階から案件に関与し、それが実際に動き始めるまでサポートすることもできますし、法律だけでなく、事業経営に関する情報にも触れることができるので、ビジネス全般に興味がある方には、良い環境なのではないかと思います。また、税務・会計といった財務面の部署とも連携して案件に関与することもあり、財務的な知識についても身に着けることができるのではないかと思います。
また、外部の法律事務所と連携したり、法律事務所からの出向者と業務を行い、様々なエキスパートの仕事を早いうちから間近で見ることができたりすることは、スキルを養う必要のある新人にとっては非常に刺激になると思います。 

Q. 企業法務弁護士になるまで、もしくはなってから、困ったことはありますか。

永尾:【なるまでに関して】
大学院にモデルケースになる方があまりいなくて、情報収集をどこからやればいいかということを1から組み立てる必要があったことです。
企業内弁護士の就活では、通常の企業就活と同様にwebテストや面接を経ることになります。私は企業の面接等の経験はなかったので、webテストや面接の対策を行う必要がありました。特にエントリーシートや面接についての対策は入念に行う必要があると思います。自身の伝えたいことが適切な表現で自然に出てくるようになるまで何度も練習を行いました。また、企業内弁護士向けの採用に関しての情報収集は欠かすことはできず、修習生向け就活サイトや東京弁護士会が行う企業就職説明会などの情報をタイムリーに収集し、スケジュールを入念に立てました。
【なってからに関して】
特に入社後3年目に差し掛かるにあたって、業務量が増え、英文案件もこなす頻度が増えてくるため、複数のタスクをこなすことが困難になりパンクしてしまう状況に陥りました。
その際は経験のある先輩弁護士や社員にも相談をし、対応に関してアドバイスを受け案件対応のノウハウを蓄えつつ、また、自分でもタスク管理方法を見直し、いつまでにどのタスクをこなすべきかを“見える化”して、何をどこまでやるべきかを明確にすることで、ある程度スムーズに対応ができるようになりました。 

Q. 企業法務弁護士の仕事を行うのに、心がけていること、または必要と思うことは何でしょうか?

永尾:先輩の弁護士からも言われることですが、法務部では様々な業務を基本的に一人で対応するスキルが求められますので、早い段階から正確かつ適切な成果物を作成できるよう、これ以上は自ら調べられないレベルまで十分な検討を行うことを心がけています。
案件に対応するための必要なリサーチを行うにあたって、どういった文献・サイトを閲覧すればよいか自分の中でマップを思い描けるようにすることも重要と思います。時には非常に限られた時間の中で検討を求められることもありますので、ある事案の回答を導き出すにあたってどの手段でリサーチをかけるべきかの適切な取捨選択を行えるようになる必要があると思います。 
そのときに、依頼の趣旨というか、本当に求めていることをきちんと伝えることを意識する必要があると思います。例えばやはり法的にこういう方法があるという正論をそのまま伝えても、事業部が実現したいビジョンというのはそこにはないこともあるので、法律論でロジカルに返すだけではなくて、きちんとそのビジネスがうまくいくためのアドバイスを法的な解釈を加えながらそのルートを一緒に検討する、そういう作業が求められると思います。その意味で言えば、広大ロー的に言う「良き隣人」じゃないですけれども、ビジネスを実際行っている方と並走して、一緒に目的に向かって進めていくための調整力は必要になるかなと思います。

Q. 仕事とプライベートのバランスはいかがでしょうか?

永尾:土日祝日に加え有休も取得できますので、比較的にプライベートの時間は確保することができていると思います。また、業務も時期によってはハードな内容となることもあるので、メンタルだけでなくフィジカルのタフさも必要ですので、最近はランニングなど適度に運動を行うようにしています。
法曹はなってからも最新の知識をキャッチアップする必要が出てくるため、プライベートの時間を使って法律書を読み、業務でも使う頻度が高いため、英語学習等継続的な自主学習も行っています。 

Q. これからご自身が目指す将来について教えてください。

永尾:法律の専門家だけではなく、ビジネス全体でサポートできるというか、法律以外の例えば税務や財務の観点からも、こういうところが問題になるんじゃないかと想像力を働かせて先回りしたアドバイスを行うことのできる法律家を目指したいと思っています。
昨今、リーガルテックも日本企業に少しずつ浸透してきており、これらの技術をどのように活用し、業務を効率化するかが課題となります。まだまだ法律上の問題など検討課題は多いと思いますが、法律分野以外では既にAIといったテクノロジー活用が進んでおり、ビジネスのスピードに対応すべく、このような技術を取り入れた業務を行うことは避けては通れないと思います。
また、当社においては、ロースクール研修制度もあり、毎年法務部員がロースクール留学に行っているので、この制度を活用し、海外の法律の知識も深め、業務に活かしたいと考えています。 

実務家と接する機会と わからないことをすぐに解消できる環境がある

Q. 広島大学の法科大学院の印象は?

永尾:私の中で非常にモチベーションになったのが臨床法務で、その臨床法務の中でマツダさん(編集注:マツダ株式会社)が来て講義をされたことがあって、私が自動車好きだというところもあって非常に楽しく受講しました。インハウスローヤーのような実務家と接する機会がある授業もありますし、また、教員との距離も近いので、法律の勉強も、例えば周田先生の答練を受けたりですとか、秋野先生をはじめとした教授陣と密にコミュニケーションをとりながら、法律の論点でわからないところや、問題で気になるところがあったら、わからないところをそのままにせずに、すぐ解消できるような環境にあったというのは非常に感謝していますし、そこで得た知識は今も役に立ってるなと思っているところです。

<後輩へのアドバイス>

司法試験やそのための勉強と向き合うことはやはりしんどいと感じるときもありますが、新たな知識を得ることの楽しさもあります。勉強を続け、蓄えた知識を何かに活かすことができたという感覚を味わう経験を増やすことはモチベーションにつながるのではないでしょうか。 

将来何がしたいか、どうなりたいのかを考えたとき、 どのタイミングで何をするかを逆算してみる

Q. これから法曹を目指す方へメッセージをいただけますか。

永尾:法律に興味が少しでもあって法曹を目指されるというのであれば、将来何がしたいかとか、その直線上に自分のなりたい未来みたいなものが漠然とでもあるのだとすれば、そこに向かって何をやっていけばいいのかを、より具体的に想像できるようスケジュールして、自分のやるべきことを、考えたスケジュールに沿ってこなすための進め方というか、勉強の仕方、全体的に言えることだと思いますけど、そういうプロセスを大事にできる人が、法曹としての自分のかなえたいその先の夢にたどり着けるのではないかなと思っています。
法曹の活躍の場は思ったよりも広く、その内容も多岐にわたります。少しでも興味を持って下さった方々には、それぞれが望むようなキャリアパスが用意されているし、自ら新たなキャリアを切り開けると思います。今の段階から自身の法曹としての将来像について考えながら勉強も進めると、より良いキャリアが築けるように思います。

法務部にて周田専攻長(法科大学院長)と

豊田通商株式会社が入る東京品川のビル

2023年2月14日取材
取材場所/豊田通商株式会社


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