本研究成果のポイント
〇Ru(IV)イオンを分子中央に組み込んだ初のAnderson型ポリオキソタングステート Na8[RuW6O24] を合成・単離しました。
〇単結晶X線構造解析とX線吸収分光により、1個のRuO6八面体を6個のWO6八面体が平面状に囲む構造とRu(IV)の局所構造を明らかにしました。
〇一般的なRu塩では生成せず、[(benzene)RuCl2]2だけが目的構造を与えたことから、有機金属前駆体が金属酸化物クラスターの形成を方向づけることを示しました。
〇中心RuはRu(IV/III)の準可逆な酸化還元を示し、得られた化合物は関連するベンゼンRuタングステートより高い水酸化触媒活性を示しました。
概 要
ポリオキソメタレート(POM)は、タングステンやモリブデンなどの金属と酸素からなる分子性金属酸化物です。構成元素と分子構造を原子レベルで設計できるため、酸化還元触媒、光・電気化学材料、センサーなどへの展開が期待されています。なかでもRuを含むPOMは有用な酸化還元機能を示しますが、Anderson型構造の中心にRuを組み込んだ化合物はこれまで単離されていませんでした。
本研究では、タングステン酸ナトリウムと[(benzene)RuCl2]2を水/エタノール中で加熱し、溶媒を蒸発させた後に再結晶することで、暗緑色結晶のNa8[RuW6O24]を得ました。単結晶X線構造解析により、中心のRuO6八面体を6個のWO6八面体が囲むAnderson型構造を決定しました。元素分析、粉末X線回折、赤外分光、熱分析およびRu K吸収端XAFSも、この組成と局所構造を支持しました。
合成条件を比較すると、RuCl3、Ru(acac)3、Ru(DMSO)4Cl2、K2RuCl5(H2O)からは目的物が得られず、[(benzene)RuCl2]2を用いた場合にだけ生成しました。高温でRu–ベンゼン結合が切断される過程が、Ruを中心とするW–O骨格の形成に関与したと考えられます。この結果は、有機金属錯体を単なる金属源ではなく、無機クラスターの核形成を制御する前駆体として利用できる可能性を示します。
Na8[RuW6O24]はpH 4の水溶液中でRu(IV/III)に帰属される準可逆な酸化還元応答を示しました。さらに、炭素ペースト電極に固定してpH 8で評価すると、水の酸化反応を触媒しました。定電位電解中も電流が維持され、回収後の赤外スペクトルにも大きな変化は認められませんでした。
用語解説
| ポリオキソメタレート | 主にW、Mo、Vなどと酸素からなる、構造の明確なナノサイズの多核金属酸化物イオン。略称はPOM。 |
| Anderson型 | 中心の金属酸素八面体を、6個の金属酸素八面体が環状に囲む平面状のPOM骨格。 |
| XAFS | 特定元素の酸化状態、配位数、近接原子までの距離などを調べるX線吸収分光法。 |
| 過電圧 | 電気化学反応を実際の速度で進めるため、理論電位を超えて必要となる電圧。一般に同一条件では小さいほど反応を進めやすい。 |
論文情報
Sherif E. Ebied, Sugiarto, Takuo Minato, Soichi Kikkawa, Seiji Yamazoe, and Masahiro Sadakane, “Anderson-Type Polyoxotungstate with Central Ruthenium, [RuIVW6O24]8−: Synthesis, Structure, Redox Studies, and Electrochemical Water Oxidation Activity,” Inorganic Chemistry, 2026, 65, 18676–18685.
DOI: https://doi.org/10.1021/acs.inorgchem.6c02109
研究体制と問い合わせ先
広島大学大学院先進理工系科学研究科 応用化学プログラムと東京都立大学大学院理学研究科の共同研究です。
【研究代表・問い合わせ先】
広島大学大学院先進理工系科学研究科 定金 正洋
E-mail: sadakane09*hiroshima-u.ac.jp(*を@に変更してください)
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