北須賀 輝明准教授にインタビュー!

北須賀 輝明准教授にインタビュー!

インターネットや携帯電話を活用した新たな伝達方法を研究。

携帯電話の通信から位置を測る研究を手始めに、新たなネットワークづくりを模索。

北須賀 輝明准教授

 私がいま取り組んでいるのは、「遅延耐性ネットワーク」に関する研究です。このお話をする前に、研究者となってから数年間行っていた「無線LANの測位」に関する研究について解説しましょう。
 まずは基本的な解説から。インターネットは有線の通信と無線の通信とで構成されています。無線というのはWi-Fiとか携帯電話の基地局と携帯電話端末の間の通信など。有線は光ファイバや以前主流だったADSLという電話線による高速データ通信など。携帯電話端末や基地局を点として、その間をつなぐ無線や有線を線とすると、通信は点と線のつらなりで成り立っていると言えます。こうした中で、私が研究対象としているのは無線のほうで、無線LANで位置を測定する「測位」に関する研究を以前は行っていました。

 いまではGPSという衛星からの電波を使って位置情報が得られるようになりましたが、GPSがなかった頃は、携帯電話は自分の持ち主がどこに自分を持っていってるのかが分かっていない状況だったんですね。そして、この携帯電話の位置情報も、実はGPSだけではなくWi-Fiという無線LANの電波も使って位置を推定しているんです。無線LANのアクセスポイントがどこにあるかという情報、つまりその電波を拾って記録したものを使って位置を測定するというのが、「無線LANの測位」というものです。以前は、自分の位置が分かるようにするためにはどういう技術がいるのかという研究をしていましたが、いまでは実用化もかなり進んできて、携帯電話の持ち主さんがどこをどううろついていたかという移動履歴がかなり正確に分かるようになっています。そこで、いまはこれを利用して、基地局やサーバがなくても電子メールや写真などを届けられる仕組みができないかというのを研究しています。
 これが、先ほど紹介した「遅延耐性ネットワーク」なのですが、もっと分かりやすくご説明しましょう。いまは通常は基地局やサーバを介して相手にメールが届きますが、Wi-Fi自体は実は、近くにある携帯電話同士で通信することを可能にするんですね。例えばメールを送りたい相手がすぐ隣にいればそこで直接通信で送れます。しかし、どこか離れたところにいると不可能です。それで、いまは直接通信できない相手なんだけれど、いま周りにいるある人が、後でその相手と会うのであれば、「渡しといて」って託せば届く。そういう風な、周りの人にお願いして最終的に宛先の人に届けてもらえるようなやり取りができるネットワークが「遅延耐性ネットワーク」というものです。

北須賀 輝明准教授
北須賀 輝明准教授

人間関係づくりの一助となる可能性を秘めた研究。ニッチな需要に応えたい。

 このネットワークを作ろうとした時に、誰に預ければその届けてほしい人に届けてくれるかをうまく見つける方法というのをいろいろと考えている訳ですが、その際に、端末が自分で調べてくれるという仕組みができないかなと思って研究しています。そこには、先ほど説明した、携帯電話の持ち主さんの動きが分かることも役に立ちますし、人工知能の働きも必要になってくるでしょう。
 イメージとしては、地域で回覧板を回すような感じなのですが、これを研究しようと思った理由のひとつに、現代社会では近所のひとを知らな過ぎると感じたことがあるんです。SNSなどが発達して、遠くのひととはつながっているのに、隣のひとのことはあまり知らない。災害とか起こった時を考えると、結局近くに住んでいる人同士が助け合わなければいけなくなります。そう思うと、近くに住んでいる人と密にコミュニケーションを取れるような仕組みが何か必要なんじゃないかなと。近くに住んでいる人同士で使えるコンピュータの通信ができないか、そこに「遅延耐性ネットワーク」が活用できないかと思ったんですね。
 例えば、広大生の皆さんにアプリケーションを配ってみんなで使ってもらうと、学生同士がどういうつながりを持っているかというデータや、キャンパス内で学生がどんな動線で動いているのかという情報が集められて、大学生が実は授業ばかりじゃなくてサークル活動での人間関係に重きを置いているとか、そうしたいろいろなことが分かる気がします。目標にしているのは、「familiar strangers(馴染みの見知らぬ人)」といった関係性、友人と他人との間くらいの人間関係をうまくつなぐきっかけをつくってあげるというようなことなんです。とは言え、技術的な問題や先々ではプライバシの問題などもあって、なかなか難しいと思いながら、研究を続けているところです。

 私は、万人受けはしなくてもいい、ニッチでもいいので、みんながあまり目にしたことのない、珍しいものをつくり続けていきたいと思っています。世の中の1~2割のひとが欲しいと思ってくれれば十分。研究の成果は、アプリケーションを作って配布したり、学会にデモ機を持参して動かして見せるというような方法で披露して、いろいろな方の意見を聞きたいというような、非理論派タイプと言えると思います。

研究

コンピュータ好きが高じて研究者に。学生たちの若いエネルギーに期待。

 私が研究の醍醐味を感じるのは、アプリケーションを書いているときだったり、バグがうまく取れたときなど。それから、グラフ関連のコンペに参加しているときも非常に楽しい時間です。2017年11月に行われた「グラフゴルフ2017」では幸いにも、General Graph Widest Improvement Award & Grid Graph Deepest Improvement Awardを受賞しました。これは、スーパーコンピュータなどで使われる複雑なネットワーク構成をグラフに置き換えて、より単純な構成のグラフの発見を競うコンペティションで、普段からペテルセングラフというグラフの立体模型をつくるなど、グラフ研究もまた私をワクワクさせるもののひとつです。

本

 また、私は2016年の秋に広島大学に赴任しましたが、広島大学の学生さんは、自分の考え方をはっきり主張できるひとが多くて、すごいなと感心しています。私自身は研究者を目指してここまで進んできたという訳ではなくて、修士修了後にはシャープ(株)に就職して開発分野で6年半勤めました。その後、社会人ドクターを取りたいと母校に相談に行ったのですが、しばらくたってからその先生からお誘いいただき、九州大学で助手になり、研究者の道を歩み始めたのですから、やはりひととのつながりというものには、意味があるなぁと思っています。

 最後に、私からも皆さんを、工学部・工学研究科へお誘いしておきましょう。
 私は小学生の頃からコンピュータがずっと好きでここまできているので、コンピュータが好きな学生さんにぜひ来てほしいなと思っています。若いということにはいろいろな可能性があります。僕らがもうここはやめた方がいいかなと思ってやっていないことに挑戦できるエネルギーを持っている人たちだと思っているので、皆さんの若さに期待しています。また、情報工学は計算機にものを頼む仕事。プログラムを書くということは、要は、自分がやりたい作業をコンピュータに代わりにやってもらうためにお願いする仕事だと思うので、楽をしたい人もぜひうちの門を叩いてみてください。
 私の研究室では、学生さんがつくりたいと思っているものをつくらせてあげたいと思っています。ぜひここを、皆さんの旺盛な創造力を羽ばたかせる場所としていただければと思います。

 

 

北須賀 輝明 准教授
Teruaki Kitasuka
計算機基礎学研究室

1993年3月 京都大学工学部情報工学科 卒業
1995年3月 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科 博士前期課程 修了
1995年4月 シャープ株式会社 入社
2001年10月~2007年2月 九州大学大学院システム情報科学研究院 助手
2006年3月 九州大学大学院システム情報科学府 博士(工学)
2007年3月~2007年9月 九州大学大学院システム情報科学研究院 助教
2007年10月~2016年3月 熊本大学大学院自然科学研究科 准教授
2016年4月~2016年9月 熊本大学大学院先端科学研究部 准教授
2016年10月~2017年3月 広島大学大学院工学研究院 准教授
2017年4月~ 広島大学大学院工学研究科 准教授
2020年4月1日~ 広島大学学術院(先進理工系科学研究科) 准教授


up