• ホームHome
  • 生物生産学部
  • 【論文公開】分子農学生命科学プログラムの藤井創太郎助教、三本木至宏教授らの論文が公開されました

【論文公開】分子農学生命科学プログラムの藤井創太郎助教、三本木至宏教授らの論文が公開されました

好熱菌由来のヘム蛋白質(シトクロムc')の一酸化窒素(NO)結合メカニズムを解明 ~「ゆっくりしたNO結合」は、強固な立体構造が原因か~

本研究成果のポイント

  • 好熱菌由来のヘム蛋白質(シトクロムc')について、一酸化窒素(NO)の結合メカニズムを分光学および構造生物学的解析により明らかにしました。
  • そのNO結合は、常温菌や好冷菌の相同タンパク質よりもゆっくり進むことを示しました。
  • X線結晶構造解析の結果、好熱菌シトクロムc'ではNO結合時のコンフォメーション変化が塩橋形成により妨げられており、これが「ゆっくりしたNO結合」の原因である可能性を示しました。
  • NOは生体内で血管弛緩等のシグナリングに関わる因子であり、本研究成果はヘム蛋白質のNO感知の基礎的な理解に繋がります。

背景と内容

一酸化窒素(NO)は、血管弛緩等のシグナル伝達分子として、また高濃度では細胞毒性種として機能するガス状分子です。鉄を含んだヘム蛋白質は、NOの感知や解毒に関わる重要かつ多様な役割を担っています。蛋白質のヘム周辺の構造が、NOの反応性を制御していることで知られています。

微生物から見出されるヘム蛋白質「シトクロムc'」はNOに特異性があります。好熱菌から好冷菌まで、様々なグラム陰性菌からシトクロムc'は見出されます。そのヘム周辺構造は、由来する微生物によって少しずつ異なっていますが、どのようにヘム構造がNOの結合を制御しているかは未知でした。

広島大学生物生産学部の藤井創太郎助教および三本木至宏教授は、英国欧州放射光施設(Diamond Light Source)、英国Essex大学、および米国Oregon大学の研究グループと共同で、構造生物学的および分光学的手法を用いて、好熱菌Hydrogenophilus thermoluteolus(旧名:Pseudomonas hydrogenothermophila)がもつシトクロムc'(PhCP)のNO結合メカニズムの解明を試みました。

NO結合の分光的な速度論解析の結果、PhCPのNO結合には中間体が形成されることが示され、常温菌や好冷菌の相同シトクロムc'と比べて、PhCPの中間体および最終生産物のためのNO結合がゆっくり進むことを明らかにしました。そしてX線結晶構造解析により、PhCPのNO結合時の蛋白質立体構造を決定することに成功しました。構造解析の結果、PhCPでは、本来起こるべきNO結合のアミノ酸残基のコンフォメーション変化(132番目のアルギニン残基が外側へ動くこと)が、ヘム周辺の塩橋形成により妨げられていることが示唆されました(図1)。また、PhCPヘム周辺に形成された水素結合が、中間体構造の速度を遅くする要因である可能性も示唆されました。すなわち、これらの相互作用の増加による強固な立体構造の形成が、「ゆっくりしたNO結合」の要因となる可能性を示しました。

図1
NO結合に伴う好熱菌シトクロムc'蛋白質のコンフォメーション変化、
および常温菌由来相同蛋白質との比較

本研究成果は、金属蛋白質がNOを感知するための錯体化学に関する基礎的知見を提供し、さらにシトクロムc'を応用したNO感知バイオミメティクス(生体模倣素材)の開発に向けた基盤的知見となります。

研究体制と支援

本研究は日本学術振興会海外特別研究員制度および科研費(23H02183)、アメリカ国立科学財団(MCB-1921670)の支援を受けて実施されました。また本研究は、英国欧州放射光施設(Diamond Light Source LtD)、英国Essex大学および米国Oregon大学との共同研究で実施されました。
 

論文情報

  • 掲載誌: Biophysical Journal
  • 論文タイトル: Conformational rigidity of cytochrome c'-α from a thermophile is associated with slow NO binding
  • 著者名: 藤井創太郎a,b,c*、Michael T. Wilson d、Hannah R. Adams d、Halina Mikolajek c、Dimitri A. Svistunenko d、Peter Smyth d、Colin R. Andrew e、三本木至宏c,f、Michael A. Hough a,b,d
    a) Diamond Light Source Ltd., Harwell Science and Innovation Campus
    b) Research Complex at Harwell, Harwell Science and Innovation Campus 
    c) 広島大学大学院統合生命科学研究科 
    d) School of Life Sciences, University of Essex
    e) Department of Chemistry and Biochemistry
    f) 広島大学瀬戸内CN国際共同研究センター
    *責任著者
  • DOI:  https://doi.org/10.1016/j.bpj.2024.06.026
【お問い合わせ】

広島大学 生物生産学部 藤井創太郎 
E-mail:sofuji*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)

広島大学 生物生産学部 三本木至宏 
E-mail:sambongi*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)


up