
アルミニウム合金、チタン合金などの軽金属を圧力と摩擦熱で接合する研究
データと向き合うことで得られた新しい発見
金属同士をくっつける、というと熱で金属を溶かし合わせて固める「溶接」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし金属は一度溶かすと様々な要因から強度が落ちるという弱点があります。そうした劣化を防ぐ接合方法が、私が研究している「線形摩擦接合」です。
この方法では金属を溶かさず接合面のみをやわらかくすることで材料同士を接合します。具体的には接合したい金属の面同士を突き合わせ、上下に動かして摩擦を起こしながら接着面側へ強く押さえつける、つまり圧力をかけます。
すると摩擦熱により突き合わせた面が軟化し、接合に至ります。一見金属が溶けているように思えるかもしれませんが、あくまでも摩擦熱により界面がやわらかくなっているだけで、溶接よりもずっと低温での接合により金属の強度を保つことが可能です。私は主に軽金属を使ってこの研究を進めており、熱の影響で強度が落ちやすいアルミニウム合金を母材と同じ強度のまま接合することに成功しました。これは私の研究分野で長らく実現できなかったことで、非常に画期的と言えます。さらに、私は研究の中で圧力が強いほど界面の温度が低くなるということを発見しました。圧力と温度は反比例の関係にあるということを見出したのです。圧力が高くなれば温度も高くなるのではという想像を超えた驚きの発見でしたが、実験のデータと時間をかけて向き合いこうした結果に行き着くことができました。
生産性・効率アップに貢献する線形摩擦接合のメリット
線形摩擦接合のメリットを紹介するために、圧力がなぜ必要なのかということをもう少し詳しく説明しましょう。圧力をかける理由は2つあり、ひとつは原子同士を混ざりやすくするため、もうひとつは金属組織を細かくするためです。金属組織が細かいと強度は高くなります。一つひとつの組織は規則的な原子配列により六面体のようになっており、それらがバラバラの方向を向いているランダム組織である場合、さらに強度が安定します。例えば、この方法で接合した金属を航空機や自動車、船舶などに利用することで安全性を
高めることができるはずです。
また、強度が高ければその分金属の厚みを薄くすることも可能になるため、軽量化によるCO₂削減も可能な環境に優しい技術になるのではと思っています。
メリットとしては他にも、短時間での接合が可能になること、接合部が約1mmと非常に狭く素材の性質をほと
んど維持したまま利用できることなどが挙げられます。研究では種類の異なる金属同士の接合にも成功しており、異なる素材を組み合わせるマルチマテリアル化が進む現代のものづくりに貢献できる技術でもあります。実用化に向けた課題としては、この方法で接合するための設備の開発でしょう。多様なニーズに応えるためには大きな設備も必要になるため、研究の利用価値をさらに高め、多くの人に伝えていくことで解決できればと思っています。また、生産性を高めるために金属接合時に出るバリ(金属の不要な出っ張り)をなくせないかと考えており、今後の研究課題としてアイデアを巡らせているところです。
目指すは分野の有名人。驚きの結果を求め貪欲に研究を
私は進路選択の際に担当の先生に声をかけてもらい、研究の道を選びました。学部生のころは違うテーマに取り組んでいたのですが、同級生の一人が物を溶かさない接合について研究しておりとても不思議に感じたことから、私の博士課程での研究テーマも同様の内容にすると決めていました。研究によって驚きの成果を得られることは非常に面白く、その成果を受けて他の研究者やエンジニアがさらに研究を進めるということを経験すると、もう止められません。私の夢は、この接合分野で実績ある先生方に認められ、私自身も分野を牽引する研究者の一人になることです。
そのために論文を書き、国内外の学会に参加するなど今の自分にできることに取り組んでいます。研究で大切にしていることは新しい発見を得られるか、驚きの結果を得られるかと常に考え、満足せず続けることです。
私のゼミにはものづくりが好きな人が多く、就職先として自動車や船舶を扱う企業、重工業系などを選ぶ人もいます。そうしたことも踏まえ、この知識を学ぶことで学生が企業の役に立てるかといったことも考えながら指導するよう心がけています。学生の中には成績の悪さから研究の道を諦める人もいますが、私は成績は研究力とは関係ないと感じています。私自身幼いころから勉強が好きだったわけではなく、自分が面白いと思う研究に取り組んで初めて、人生で学ぶことを楽しいと感じました。
学ぶ意欲とやる気を持って研究を楽しむことができる人にとって、ここは国内外の学会に挑戦できる機会も多い研究室です。多くの人は英語で話す国際学会を避けますが、挑戦して一度乗り越えたらきっと人生が変わります。どう変わるかは人それぞれですが、私自身は先の人生で、楽しみながら仕事に向かえるマインドを得られると信じています。何を隠そう、私も学会発表で緊張の瞬間を乗り越え、人生が変わった一人です。
崔 正原 助教
JEONGWON CHOI
成形プロセス工学研究室
2020年3月 大阪大学 大学院工学研究科 マテリアル生産科学専攻 博士後期課程修了 博士(工学)
2020年4月 大阪大学 接合科学研究所 特任研究員
2021年4月 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 機械工学プログラム 助教