2025年3月23日、令和6年度広島大学学位記授与式が行われ、生物生産学部生101名が卒業しました。
午前中に東広島運動公園で行われた式典の後、午後からは学部全体での学位記授与式を行い、授与式終了後には、各プログラム毎に屋外で記念撮影を行いました。

水圏統合科学プログラム

食品科学プログラム

応用動植物科学プログラム

分子農学生命科学プログラム

国際生物生産学プログラム
2024年度 卒業証書授与式 お祝いの言葉
広島大学 生物生産学部 学部長 島田昌之
みなさん、卒業おめでとうございます。
生物生産学部を代表して、お祝いの言葉を述べさせていただきます。
今日、皆さんは広島大学の生物生産学部の卒業要件単位をすべて修得し、学士となりました。多くの皆さんは大学院へと進学され、引き続き、一緒に学び、研究をされます。一方、就職され、新たな大きな一歩を踏み出す方々もおられます。これまでもアルバイトなどで社会の中で活動してきた方も多いでしょうが、4月からは真の社会人として、社会の課題を発見し、それぞれの立場で解決手法を考え、地域、日本、世界の持続的発展に寄与できる高度専門人材として活躍されることを期待しています。
さて、総合研究大学である広島大学の卒業生として、皆さんは、高度専門人材として期待されています。では、高度専門人材とは、どのような人材でしょうか?様々なことを知っている人、高いコミュニケーション力、プレゼン能力、語学力に優れ外国でも活躍できる人、これらは、教養力(リベラルアーツ)です。この教養力に加えて、専門的知識を持っている人、専門分野の問題を見つけ、解決できるスキル(分析手法)を持つ人でしょうか。5年前、10年前であれば、まさに高度専門人材の定義であったと思います。しかし、これらは、生成AIにより助けてもらえるものになったため、その先を求められるようになっています。
昨今の技術革新は、とても早いものになっていて、過去のスタンダードは、現在の標準以下になってしまっています。私の専門分野でいうと、遺伝子発現の解析は、ノーザンブロッティングや、RNAプロテクションアッセイ、ラジオアイソトープを用いた判定量的RT-PCR、これは、もう誰も実施する人はいません、から、real time PCRがスタンダードになりました。2、3日後にしか結果が得られなかったものが、数時間以内で結果を得られるようになったわけです。そして、マイクロアレイ解析からRNAseq、single cell RNA seq、3D-トランスクリプトーム解析へと技術革新がなされ、今では、組織中の一つ一つの細胞において、網羅的に発現する遺伝子を検出することができるようになりました。その結果、短時間でたくさんの結果が出てくるので、研究の進捗速度が極めて速くなるとともに、結果を考察し、理解することにかけられる時間が短くなってしまいました。そこにバイオインフォマティクスや生成AIによる結果の解釈を客観的に短期間で、網羅的に行う手法が登場しています。
では、何を人がするのか?ということです。この問いは、研究だけでなく、社会生活すべてに当てはまる問いになっていて、総合研究大学である広島大学を卒業した皆さん、高度専門人材として、何をできるか、の答えにもなると思います。
その答えの一つ、と私が考えるのは、判断する力です。遺伝子発現解析を例にするのであれば、バイオインフォマティクスにより候補化された機能や遺伝子、生成AIが示した仮説や結果のとらえ方について、どの遺伝子、機能に着眼し、実証するか?生成AIの導いた仮説、結論が正しいか、疑わしいかを判断する力です。
何かを判断する時、皆さんは、おそらく、過去の自分自身の経験に基づいて判断していると思います。それが不足していれば、検索して、信用できる情報を探しているのではないでしょうか?経験量が多ければ、その判断の正確性が高まります。そこに、客観性のある(信頼度の高い)情報を補完できれば、その精度は上昇し、調べなくても知識として知っていれば、瞬時に判断できます。この様々な経験をするということ、それも皆さんに期待される「食や環境に関する高度専門人材」として、生物生産学部では、座学、実験実習に加えて、付属施設を活用した様々なフィールド演習、そして、海外演習を開講し、皆さんは、卒業単位の修得を通して、必要な経験を積み、知識を身に着けています。それにもかかわらず、自分自身で判断することを放棄して、すぐに検索する、信ぴょう性を判断せずに信じる、というのは、残念なことです。自分の力(能力)を使って、判断する、判断できる、ことを、それぞれのシチュエーションで実行してください。
自分で判断するというとき、自分が考えるからそれでよい、という利己的な思考になるのは間違いだと思います。正確な判断、独創的な考えを導き、判断していくためには、異なる分野の知識や考え方との融合する知能が重要になります。目的をもって学ぶだけだと予定調和な情報しか得ることができないわけです。偶然出会う経験、偶然得る知識があって、一人の人間として、人間らしく考え、判断し、社会で活躍できると考えます。現在は、AIのアルゴリズムによって、自分で調べているつもりが、自分の嗜好に合わせて提示されていることのみしか知る機会がなくなっているのが現代です。多様な情報に対して偶然に接することができない社会になっています。
卒業式の祝辞も生成AIに命令すれば書いてもらうことができます。おそらく、複数のキーワードとエピソードを入力すれば、耳に心地よい、流れるような文脈の祝辞になると思います。しかし、それでは、私が皆さんの前に立って話をする意味がないと思って、毎年、何を話をしようかと考えて、大学生の自分の子供に伝えたいこと、指導学生を見ていて感じることから、テーマを決めて、原稿を書いています。それが、少しでもオリジナリティーがあって、何か一つでも皆さんに響いて、今後の人生に役立てればと希望しています。
しかし、自分だけでは解決できない問題にぶつかるときがきっとあると思います。家族、友人に相談するだけでなく、すでに社会で活躍している生物生産学部の先輩方、これから生物生産学部に入ってくる後輩、そして卒論研究で苦楽を共にした研究室の仲間、指導教員という大学で得られた財産も活用してください。それが、母校です。卒業後も広島大学生物生産学部のステークホルダーであることには変わりません。いつでも母校に帰ってきてください。そして、より良い母校にするために、時には厳しい意見を言ってくださればと思います。
最後になりますが、皆さん卒業おめでとうございます。皆さんの門出を祝し、日本の未来を支える人材として、激動する社会の中で活躍されることを祈念して、学部長のお祝いの言葉とさせていただきます。