広島大学 生物生産学部
鈴木 卓弥 E-mail:takuya*hiroshima-u.ac.jp
(注: *は半角@に置き換えてください)
大腸上皮のCyp2c55発現の制御メカニズムと生理的役割
本研究成果のポイント
- 腸管に特異的に発現するCyp2c55遺伝子は、腸内細菌叢および炎症によってその発現が大きく制御されていることを明らかにしました。
- 胆汁酸の代謝産物が、核内受容体PXRを介してCyp2c55発現を誘導することを、マウスコロノイドを用いて示しました。
- 炎症性腸疾患モデルマウスにおいて、Cyp2c55の発現が低下することから、腸内環境の恒常性維持におけるCyp2c55の関与が示唆されました。
研究成果の概要
腸内細菌叢は、宿主の消化・免疫・代謝などに広く関与し、健康維持に不可欠な共生関係を築いています。しかし、この複雑な相互作用の分子メカニズムについては未解明な点が多く残されています。本研究では、腸内細菌叢に依存して発現する遺伝子に着目し、特にマウス大腸に高発現するCyp2c55遺伝子の制御機構の解明を試みました。
RNAシーケンス解析の結果、無菌マウスおよび抗生物質処理マウスでは、Cyp2c55の大腸での発現が有意に減少しており、腸内細菌の存在がCyp2c55発現に不可欠であることが明らかになりました。また、炎症性腸疾患モデル(DSS投与マウス)においても、Cyp2c55の発現は低下していました。これらの結果から、腸内細菌叢および炎症環境がCyp2c55の発現制御に関与していると考えられます。
さらに、胆汁酸代謝とCyp2c55の関連性を検討した結果、二次胆汁酸のレベルがCyp2c55の発現と正の相関を示すことがわかりました。マウスの結腸オルガノイド(コロノイド)を用いた実験では、核内受容体PXR(pregnane X receptor)のアゴニスト処理により、Cyp2c55発現が誘導されることを確認しました。一方で、炎症性サイトカインの存在下ではその発現が抑制されることも明らかとなりました。
本研究の成果は、腸内細菌叢と宿主遺伝子発現との相互作用、特に胆汁酸を介した分子経路の一端を示したものであり、腸内環境の恒常性維持や腸疾患の予防・治療への新たな知見を提供します。今後は、Cyp2c55の機能的役割の詳細や、ヒトへの応用可能性の検討が期待されます。

大腸上皮のCyp2c55発現は、腸内細菌と炎症によって強く制御されている
論文情報
- 掲載誌: The FASEB Journal
- 論文タイトル: The expression of intestinal Cyp2c55 is regulated by the microbiota and inflammation
- 著者名:JAdrian Hilman, Tetsu Sato, Bambang Dwi Wijatniko, So Fujimura, Katsushi Nakamura, Hiroto Miura, Ken Iwatsuki, Ryo Inoue, Takuya Suzuki
- DOI: 10.1096/fj.202401807R.