分子システム薬剤学

内田 康雄 教授

【研究キーワード】
 様々な中枢疾患の創薬・治療、システムズ生物学、定量プロテオミクス、薬物動態学、薬剤学、血液脳関門・血液クモ膜関門・血液脳脊髄液関門・血液脊髄関門、ヒトの病態脳組織を活用した研究、トランスポーター、受容体、質量分析装置、ドラッグデリバリー

【最近のハイライト】
 「最先端のオミクス技術を用いて中枢関門の仕組みを解き明かし、中枢疾患創薬の突破口を拓く」ことを目標に研究しています。
 2022年は、15報の論文等を発表し、そのうち、研究室学生が筆頭著者で8報の論文を発表しました。研究室内での研究活動やセミナー発表(日本語と英語)をベースに、学会発表はもちろん、学生のみんなが自身の研究を論文等で発表することを重視しています。論文は、自分の努力を一生残せる唯一無二のものです(永遠と公開)。
 2023年からの招待講演は、3月30日 第6回日本質量分析学会東北談話会、4月15日 第112回日本病理学会総会、5月13日 第34回 臨床MR脳機能研究会、6月2日 第64回日本神経学会学術大会、6月10日 広島大学公開講座、6月20日 Cerebral Vascular Biology 2023 (Uppsala)、7月5日 第23回日本蛋白質科学年会、7月25日 日本プロテオーム学会2023年大会(シンポジウムオーガナイザー&発表)、7月30日 ヒロシマ薬剤師研修会、10月6日 Korean Society of Applied Pharmacology (KSAP) annual meeting 2023 (Seoul)、10月31日 第96回日本生化学会大会(シンポジウムオーガナイザー)、11月20日 日本膜学会第45年会、2024年1月27日 第149 回 日本薬学会中四国支部例会、2024年3月30日 日本薬学会第144年会、2024年5月23-25日 日本薬剤学会第39年会(シンポジウムオーガナイザー&発表)となります。
 研究室の学生の就職先は、企業の研究職が最も多いですが、臨床開発職、CRO、薬剤師、公務員など様々です。

研究者総覧へのリンク

【教育内容】
 講義・実習では、薬物動態学や薬剤学の基礎を全般的に教育します。研究室に配属後は、これらの学問をベースに、生化学、分子生物学、薬理学、分析化学、バイオインフォマティクス、プロテオミクスなど様々な学問や技術を取り入れて、学生が分野横断的に幅広い視野を身につけられるよう教育しています。
 研究は、学部時代の講義の成績と関係なく、誰しもが成功できる・得意になれる可能性がある活動です。この鍵は、楽しめるかどうかです。どんな芸術やスポーツでも、選手として楽しめるようになるためには、それなりの努力と時間が必要です。研究には、世界の誰も見たことのないことについて世界で初めて自分が発見できる楽しみや、自身のアイデアを実験的に証明することができる楽しみがあります。この楽しさを味わえるようになれるよう、全力でサポートいたします。
 また、博士号取得へのチャレンジを推奨しています。20代は、人生で最も自分を試せる・成長させられる時期です。何事も、5年以上、一つのことに没頭している人の話は面白いと言われます。様々な経験と試行錯誤の末に養われる問題解決能力は、どの分野にでも、多様な職種にも応用可能であるため、博士号取得はかけがえのない人生の自信になります。

【研究内容】
 中枢組織には、血液脳関門(BBB)に加えて、血液脳脊髄液関門(BCSFB)、血液クモ膜関門(BAB)および血液脊髄関門(BSCB)の4種類の関門組織が存在し、末梢(血液)と中枢組織内を隔てています。これらをまとめて中枢関門と呼びます。

 

中枢疾患治療薬の新薬開発における課題
 ①薬の標的となる分子は、中枢関門を超えた中枢組織内に存在するという概念が一般的であるため、②薬は中枢関門を通過して中枢組織内へ到達する必要がありますが、99%以上の薬はP糖タンパク(P-gp)などの排出ポンプによって中枢への侵入が妨げられています。③タンパク質・遺伝子やナノ粒子などの高分子にいたっては、中枢関門を全く通過できません。これらの重要課題を解決するため、以下の4つの構想を具現化していき、新学問「バリア制御学」を創成することを目標に、日々、研究に取り組んでいます。

 

構想1
 中枢関門の通過を必要としない創薬。中枢関門の細胞自体を薬の標的と捉え、創薬を行うことで、脳移行性の課題を解決する。中枢関門は、良くも悪くも脳内環境に影響を与えているため、中枢内の病気の原因は、関門の異常によるものであり、その異常を治療することによって、中枢疾患が治療されるというこれまでにない新しい創薬戦略を確立する。
 現在、主に、この構想1に取り組んでいます。

構想2
 他臓器にはなく、中枢関門特異的に高発現する膜タンパク質を利用して、RNAを搭載している脂質ナノ粒子を中枢関門細胞内へ選択的に届ける技術を確立する。これによって、まず、P-gpのsiRNAを送達することによって、中枢関門のみのP-gpをノックダウンし、副作用のない、脳移行性改善を行うことで、新薬開発でドロップアウトしている8割もの候補化合物を救う。また、高速で内在化できる膜タンパク質を利用して、mRNAを搭載した脂質ナノ粒子を関門細胞へ導入し、目的タンパク質を合成させることによって、脳内へ速やかにあらゆるタンパク質医薬を届ける仕組みを構築する。

構想3
 低分子医薬品についても、関門細胞で合成される仕組みを作る。すなわち、これまでの創薬の歴史において、薬理作用はあるけれども、そのままの構造では関門を通過できず、ドロップアウトしてきた莫大な化合物の利用価値を見出す。具体的には、関門内へ届きやすい構造として関門細胞内へ届け、関門細胞内で化学反応を起こさせ、薬理作用のある活性化合物に変換する仕組みを構築することで、これまで中枢内へ到達しなかった、または末梢臓器に副作用があった化合物を中枢疾患治療薬として利用できるようにする。

構想4
 血管年齢の診断が生活習慣病のチェックに利用されているように、中枢関門の“年齢”を診断することによって、今後の中枢疾患の発症予測を行う仕組みを作る。世界的に、中枢疾患の診断は、脳を採取して生検することはできないため、血液バイオマーカーを用いた診断やイメージングプローブを脳へ届けて検査する方式が主流である。しかし、脳内の異常物質が関門を透過しづらく血液中に現れにくいことや、イメージングプローブも脳移行性が良いものに限られている。これに対して、中枢関門細胞は血液へ面しており、血液中へその構成成分が流れ出やすいため、関門内の異常分子機構をとらえ、その一部の成分を対象に血液診断することによって、中枢関門の状態を診断できる。また、上述の仕組みで、診断プローブを中枢関門選択的に導入できるため、診断プローブ自体の脳移行性の良し悪しに関わらず、あらゆる診断プローブを導入でき、中枢関門の環境を測定することができる。中枢関門の状態、すなわち“年齢”、は中枢疾患の予兆を反映するものであるため、この中枢関門診断によって、中枢疾患の診断学を劇的に変革できる。


up