広島大学 生物生産学部 磯部 直樹
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本研究成果のポイント
- ウシの乳房では細菌感染による炎症(乳房炎)が頻繁に起こり乳質が低下
- 乳房の免疫能力を鍛えることにより細菌の感染を防御
- 日本初の乳房炎治療法(ショート乾乳法)の効果を蛋白レベルで解明
研究成果の内容
細菌が乳房内に侵入することはしばしばあるが、普通は乳房の免疫によって排除されます。しかし、ウシの体調が悪かったり、ストレスを受けていたりすると免疫力が低下し、細菌を殺すことができないことがあります。すると、乳房内で細菌が増殖し感染して炎症を起こします。この状態を乳房炎と呼びます。乳房炎になると乳の成分が変化し質が低下して美味しくない牛乳となると同時に、乳量も低下するので、農家にとっても損害が大きくなります。したがって、細菌に対する免疫を最大限にする必要があります。免疫の中でも抗菌物質は細菌が侵入するとすぐに活躍する免疫で、抗体などと違い、どの細菌にも反応して排除してくれます。本論文では、乳房炎の治療として最近日本で開発されたショート乾乳という手法に抗菌物質がどのように関わっているのかを調べました。
ウシのモデル動物としてヤギを用い、3日間搾乳を停止した時の乳中の抗菌物質の濃度を測定しました。すると、抗菌物質(ディフェンシン、S100、ラクトフェリンなど)の濃度が搾乳停止開始後に劇的に増加していることが分かりました。このことから、ショート乾乳治療において、抗菌物質が感染細菌に働き排除することに大いに貢献していることが分かりました。
今後は、これらの抗菌物質をさらに増やす条件を検討することによって、乳房炎に対する予防・治療法に結び付けることを目指します。また、抗菌物質を多く含む牛乳を作ることができれば、私たちがそれを飲むことによって健康を維持したり、感染症への治療として利用できる可能性もあると考えています。
論文情報
- 掲載誌: JOURNAL OF DAIRY SCIENCE
- 論文タイトル: Effect of temporary cessation of milking on the innate immune components in goat milk
- 著者名: Fika Yuliza Purba, Yoshihisa Ishimoto, Takahiro Nii, Yukinori Yoshimura, Naoki Isobe
- DOI: 10.3168/jds.2021-20564
掲載日:2021年10月5日