広島大学 生物生産学部
海野 徹也 E-mail:umino*hiroshima-u.ac.jp
(注: *は半角@に置き換えてください)
クロダイ稚魚に寄生するサヨリヤドリムシ(ウオノエ科)の寄生率は微細な環境要因によって左右される
本研究成果のポイント
- 広島県江田島市の16地点でクロダイ稚魚に寄生するサヨリヤドリムシの寄生率を調査したところ、河川などの淡水流入がない場所で寄生率が高い傾向がありました。
- 飼育実験では、マンカは急激な変化によって生存期間が短くなることが分かりました。
- 淡水流入が近くにあると、クロダイ稚魚は低塩分環境に逃げ込むことで、サヨリヤドリムシから逃れている可能性があります。
研究成果の概要
ケララ中央大学(インド)の藤田大樹研究員、広島県呉農林事業所の大﨑聖太氏、広松久水産株式会社の大中健嗣氏、広島大学大学院統合生命科学研究科の河合賢太郎助教、海野徹也教授らの研究グループは、クロダイ稚魚に寄生するサヨリヤドリムシを対象に、近接した沿岸域で寄生率が異なる要因を、野外調査と飼育実験から調べました。本研究論文は、国際科学雑誌「Regional Studies in Marine Science」に2026年10月21日付で掲載されました。
ウオノエ科等脚類は魚類の口の中・鰓・体表などに寄生する甲殻類で、日本からは47種が知られています。中でもサヨリヤドリムシMothocya parvostisは、最も頻繁に見つかるウオノエ類の一種です。主にサヨリを終宿主としますが、クロダイなどの稚魚にも寄生し、中間宿主として利用すると考えられています。サヨリに寄生する寄生虫雌の育房から放出されたマンカ(サヨリヤドリムシの仔虫)は、自由に泳いで宿主となる魚を探し、クロダイ稚魚などに寄生します。ウオノエ類の寄生率は、場所や年によって大きく異なります。しかし、その違いにどのような環境条件が関係するかは、十分に分かっていませんでした。研究グループが過去に実施した調査では、調査期間中に西日本豪雨が発生した2018年に、クロダイ稚魚の寄生率が低いことが報告されていました。このことから、雨水や河川水の流入に伴う塩分の低下が、寄生に影響する可能性がありました。
そこで本研究では、近接した海岸の環境の違いと寄生率の関係を調べるとともに、マンカの生存に対する塩分の影響を飼育実験で検証しました。
図1. クロダイ稚魚に寄生するサヨリヤドリムシ(矢印)
スケールバーは5 mm
2021年6月中旬から8月上旬にかけて、広島湾の16地点の波打ち際でクロダイ稚魚4193尾を採集し、サヨリヤドリムシの寄生の有無と魚の全長を調べました。これまでの研究から、クロダイ稚魚への寄生率は、魚の大きさによって変わることが分かっていました。この影響を考慮して地点間の違いを検討するため、統計モデルによる解析を行いました。その結果、魚の大きさの影響を調整した後も、寄生率に有意な地点差が認められました。非常に近い海岸であっても、寄生の状況が異なることがわかりました。各地点について、水温、塩分、透明度、砂の温度、底砂の細かさ、海底の傾斜、海岸の開放性、淡水流入の8要因を測定・評価しました。これらの要因には互いに関連するものがあるため、「主成分分析」を用いて、環境の特徴を少数の総合的な指標にまとめました。探索的解析において、第2主成分と第4主成分の値が低い地点ほど、寄生率が高い傾向がみられました。この結果は、閉鎖的な海岸ではマンカがとどまりやすく、クロダイ稚魚との接触機会が増えるためと解釈できます。一方で、塩分そのものは寄生率に有意な影響は与えていませんでした。
図2. クロダイ稚魚の大きさと環境条件による寄生率の違い。横軸はクロダイ稚魚の全長を示します。点は調べた魚1尾ずつを表し、赤は寄生が確認された個体、青は確認されなかった個体です。赤い曲線は、統計モデルから推定した寄生率を示しています。寄生率は魚の成長に伴って上昇し、全長約36 mmで最も高く、その後は低下する傾向がみられました。また、同じ大きさの魚でも、採集地点の環境条件によって推定される寄生率が異なりました。上段(a)と下段(b)は、それぞれ複数の環境条件をまとめた指標「PC2」と「PC4」による違いを示しています。実線は指標が低い場合、破線は平均的な場合、点線は高い場合を表し、どちらの指標も低い場合に寄生率が高く推定されました。
塩分がマンカの生存に与える影響を調べるため、3個体の雌から得た幼生を、塩分0、10、20、30、40 pptの5条件に各30個体ずつ分け、21℃で飼育しました。塩分に慣らす期間は設けず、それぞれの条件へ直接移しました。淡水に当たる0 pptでは、全個体が実験開始から1日以内に死亡しました。10 pptでも、20~40 pptに比べて生存期間が有意に短くなりました。一方、野外で測定された塩分に近い20 pptと30 pptの間には、生存期間の有意な差は認められませんでした。主成分分析と飼育実験の結果から、サヨリヤドリムシのクロダイ稚魚への寄生機会は、海域全体の塩分というよりも、局所的な低塩分環境が近くにあるかどうかに影響されている可能性があります。つまり、淡水流入が近くにあると、クロダイ稚魚は低塩分環境に逃げ込むことで、サヨリヤドリムシから逃れることができるのではないかと考えられます。
図3. 塩分の違いによるサヨリヤドリムシのマンカの生存状況。横軸は飼育開始からの日数、縦軸は生存しているマンカの割合を示します。塩分0、10、20、30、40 pptの5条件で、それぞれ30個体を21℃で飼育しました。線の色と種類は塩分の違いを表し、線が下がるほど生存個体の割合が減ったことを示します。淡水に当たる0 pptでは、全個体が1日以内に死亡しました。10 pptでも20~40 pptより生存期間が短くなりました。一方、20 pptと30 pptの間には、生存期間の有意な差は認められませんでした。40 pptでは開始直後に一部の個体が死亡しましたが、その後は他の条件より長く生存する個体がみられました。
本研究は、沿岸環境の違いと宿主-寄生虫関係を理解するための基礎的な知見となります。今後は、魚やマンカの密度、水の流れなども併せて調べることで、寄生率の地域差や年ごとの変動を生み出す仕組みの解明につながると期待されます。
論文情報
- 掲載誌: Regional Studies in Marine Science
- 論文タイトル: Fine-scale environmental factors influencing prevalence of Mothocya parvostis infestation on juvenile black sea bream, Acanthopagrus schlegelii
- 著者名: Hiroki Fujita, Shota Ohsaki, Takeshi Ohnaka, Kentaro Kawai, Tetsuya Umino
- DOI: https://doi.org/10.1016/j.rsma.2026.105564

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