令和3年度学位記授与式を行いました

2022年3月23日、令和3年度広島大学学位記授与式が行われ、生物生産学部生102名が卒業しました。

新型コロナウイルス感染症への感染防止の観点から、午後からの学部での学位記授与式はオンライン形式で行い、その様子をライブ配信しました。(※当日の様子は、こちらからご覧いただけます)

授与式終了後には、各プログラム毎に屋外で記念撮影を行いました。

水産生物科学コース

食品科学コース

動物生産科学コース

分子細胞機能学コース

生物圏環境学コース

学部長メッセージ

令和4年3月23日 卒業生に送るメッセージ

広島大学生物生産学部長 三本木 至宏

みなさん、今日はご卒業おめでとうございます。そして、ご家族のみなさま方、大切なご子息御令嬢を入学の日から今日まで、ここ生物生産学部に送り出していただき、ありがとうございました。

卒業するみなさんは、今、希望に満ちていると思います。と同時に不安も抱えていることでしょう。コロナ禍はこれからどうなるのか分からず、3月になって東北地方では大きな地震が起きています。そしてウクライナは戦争です。そんな中で明日への一歩を踏み出そうとしているみなさんに、今日は2冊の本を紹介します。

一冊目は遠藤周作の『影に対して』です。遠藤周作は、たしか40年か50年ぐらい前にインスタントコーヒーのテレビコマーシャルに出ていて、そのころ小学生でコーヒーを飲んだことがなかった私は、コーヒーってそんなにおいしいのか? と純粋に思いました。それで遠藤周作の名前は知っていたのですが、つい最近、初めて読んだ彼の小説を紹介します。

この小説では、「アスファルトの道」と「砂浜」が人の歩みについての比喩として語られています。まず、「アスファルトの道」を要約しますと、「アスファルトの道は歩きやすいが、そこに足跡は残らない」と言っています。一方、「砂浜」については、「砂浜は歩きにくいが、振り返ると自分の足跡が一つ一つ残っている」と言うのです。

みなさんは、広島大学ですでに、「アスファルトの道」と「砂浜」、両方を経験しています。3年生までの講義や実習では、誰かが作ってくれた「アスファルトの道」を歩みました。そして、卒論研究では、答えが分かっていない未知の問題に取り組みました。それは「砂浜」を歩いたようなものです。その「砂浜」に、みなさんは遠藤周作が言うようにそれぞれの足跡を残しました。みなさんの中には、すでに学術論文として科学の歴史にその足跡を残している方もいます。

これから、前人未到の「砂浜」に足跡を残し、明日を創っていくのはみなさんです。歩きにくい「砂浜」ではなかなか進まないかもしれませんが、自分の足跡を確実に残していってください。一方で、「アスファルトの道」は、先人たちが残した足跡の上にあることも忘れないでください。それは、みなさんのお父さんやお母さんの足跡かもしれません。

次に紹介するのは、ノンフィクション作品、『暁の宇品』です。著者は、今ジャーナリストとして大活躍されている堀川惠子さんです。堀川さんは、広島大学総合科学部を卒業したみなさんの先輩です。

この本の舞台は、広島市の宇品です。今は松山に行く舟が出る港です。そこにかつて陸軍の輸送基地がありました。この本では、その基地のトップだった佐伯司令官が紹介されています。佐伯司令官は、広島に原爆が投下された、まさにその日に被災地の消火を指示するなど、初動活動をしています。それまで人類が経験したことのない原爆投下という未曽有の災禍に直面して、佐伯司令官は素早く適切な行動をとっているのです。

堀川さんは、佐伯司令官のとったこの行動が若いころの経験によるものだと分析しています。原爆投下の22年前に関東大震災が起きました。堀川さんによると、軍人になったばかりの若き佐伯司令官は関東大震災のときに救護活動を行っていて、危機に直面したときには初動活動が大切であるということを、身をもって経験しました。この経験が広島での原爆投下直後の活動に活かされているというのです。

広島への原爆投下や関東大震災、いずれも遠藤周作がたとえた「砂浜」です。歩きにくいどころか、ほとんどの人が歩けないような「砂浜」です。ですが、その「砂浜」を関東大震災で経験した佐伯司令官は、広島での原爆投下に対しても素早く対応できたのでしょう。

今、コロナ禍や自然災害、戦争などによって、世界中の多くの人が「砂浜」を歩いているかのようで、それはまさに逆風を受けていると言っても過言ではありません。

みなさんには、これからのそれぞれの進路で、広島大学での経験を活かし、逆風に立ち向かい、「砂浜」に自分の足跡を残していってほしいと思います。スキージャンプでは、追い風よりも逆風が吹いている時の方が飛ぶ距離が長くなるそうです。一度でも逆風に立ち向かった経験は、いずれ何らかの形で活かされ、新たな「アスファルトの道」をつくることになると思います。

最後にもう一度言わせてください、「ここでの経験をぜひ今後に活かしてください」。


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