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【論文公開】応用動植物科学プログラムの上田晃弘教授らの論文が公開されました

ビタミンB2処理によるイネの耐塩性強化

本研究成果のポイント

  • ビタミンB2(VB2)を用いた種子プライミングはイネ幼苗の耐塩性強化に効果的
  • VB2は液胞にNa+を隔離する液胞膜型Na+/H+ antiporter遺伝子群の高発現を誘導
  • 発芽吸水時の化合物処理(種子プライミング)は作物育種の必要がない現場応用可能な技術

研究成果の内容

土壌に塩分(主にNa)が過剰量蓄積されると塩害が発生し、作物の生産性を著しく低下させる。塩害は乾燥地や半乾燥地、沿岸部で発生しやすく、世界の農耕地の約20%が塩害土壌となっている。塩害土壌での農作物生産には作物の耐塩性を向上させる必要がある。

本研究では種子発芽時に吸収させることで、イネ幼苗の耐塩性を強化する化合物(種子プライミング)の探索を行った結果、ビタミンB2(リボフラビン、VB2)が有用であることを示した。

塩害に弱い品種コシヒカリの種子に10 µMリボフラビンを24時間処理し、風乾・発芽後にイネ幼苗の耐塩性を評価した。3週間の25 mM NaClストレス下でのイネの地上部乾物生産は約30%減少するが、リボフラビンによる種子プライミングを行った場合にはこの減少が見られなくなった。イネ幼苗の地上部のNa+濃度はプライミングにより若干減少したものの未処理区と大きな差は見られなかったことから、プライミングはのイネ体内へのNa+流入抑制には寄与しなかった。同程度のNa+を蓄積しつつも、プライミングしたイネ幼苗が優れた耐塩性を示した原因を探るべく、様々な耐塩性関連遺伝子群の発現量をリアルタイムPCR法により調べた。その結果、プライミングは液胞膜型Na+/H+ antiporter遺伝子群の高発現を誘導していることが明らかとなった。塩ストレス下での作物の生育が阻害される要因の一つに細胞質でのNa+蓄積があるが、プライミングはNa+/H+ antiporterを介したNa+の液胞への隔離(=細胞質Na+の低下)を活性化させることでイネの耐塩性を強化すると考えられた。

開発途上国の多くではイネ栽培は苗の移植ではなく種子の水田への直播が主流であるため、発芽後の幼苗の耐塩性強化の技術開発が重要である。本研究により、種子プライミング技術は長い年月が必要となる育種に頼らない、簡便なイネ実生の耐塩性強化方法として有効であることが示された。今後はVB2がどのような作用機序で液胞膜型Na+/H+ antiporter遺伝子群の発現を制御しているのかの分子機構をさらに理解する必要がある。

本研究は科研費・国際共同研究強化(B)による支援を受けました。

論文情報

  • 掲載誌: Journal of Plant Growth Regulation 
  • 論文タイトル: Riboflavin Seed Priming Activates OsNHXs Expression to Alleviate Salinity Stress in Rice Seedlings
  • 著者名: Kamonthip Jiadkong, Mami Nampei, Sumana Wangsawang & Akihiro Ueda
  • DOI: https://doi.org/10.1007/s00344-022-10768-1
【お問い合わせ】

広島大学 生物生産学部 上田 晃弘
Tel:082-424-7963 FAX:082-424-7963
E-mail:akiueda*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)


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