広島大学 生物生産学部 磯部 直樹
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細菌感染によらない乳房炎を発見
本研究成果のポイント
- 子宮に細菌の成分を注入するだけなのに乳房で炎症が起こった
- 細菌感染が原因ではない乳房炎が証明できた
- 乳房炎での不要な抗生物質使用の減少につながる
研究成果の内容
乳房炎は乳牛に多発する病気であり、通常は乳房内へ細菌が侵入・感染して起こると考えられています。しかし、乳房炎になった時の牛乳を検査しても細菌が検出されないことがあるため、生きた細菌による感染以外の理由で乳房炎が起きている可能性があると発想しました。そこで、子宮では細菌感染が頻発するので、ここで感染した細菌の成分が血液を通して乳房へ移動して乳房炎を起こすのではないかと予想し、これを証明するために本試験を行いました。
モデル動物としてヤギを用い、子宮内に細菌の成分であるリポ多糖(LPS)を1週間毎日注入したところ、乳量が低下し、体細胞数(SCC、炎症の指標)が上昇しました。また、乳汁中の炎症性サイトカインの濃度も子宮内LPS注入により有意に増加しました。これらのことから子宮内に細菌成分を注入することにより乳房炎を発症することが明らかにされました。つまり、乳房での細菌感染によらない乳房炎の可能性があることが分かりました。このような症例では抗生物質による治療が不要になるため脱抗生物質へ多大な貢献ができます。
今後は、乳房炎の原因が細菌感染かどうかを簡単に診断する手法を見つけ、不要な抗生物質使用を減らしていけたらいいと思っています。
子宮内にリポ多糖(LPS、細菌成分)を投与することで乳房で炎症が起きた。
論文情報
- 掲載誌: Theriogenology (2022) 193: 87-92
- 論文タイトル: Effect of Repeated Intrauterine Infusion of Lipopolysaccharides on Mastitis in Goats.
- 著者名: Jaisue Jirapat, Nii Takahiro, Suzuki Naoki, Tsugami Yusaku, Isobe Naoki
- DOI: doi.org/10.1016/j.theriogenology.2022.09.009