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【論文公開】分子農学生命科学プログラムの藤井創太郎助教、三本木至宏教授、および水圏統合科学プログラムの河合幸一郎教授によるJAMSTECとの共同研究の成果が論文として公開されました

酸耐性Chironomus属ユスリカ幼虫に共存する幼虫種特異的な微生物叢

本研究成果のポイント

  • 生物の酸性環境適応メカニズムを理解するために、3種の酸耐性および8種の酸感受性のChironomus属ユスリカ幼虫に共存する微生物叢を比較しました。
  • 酸耐性幼虫に共存する微生物叢は感受性幼虫よりも多様性が低いこと、酸耐性幼虫の種ごとに微生物叢が独自なこと、そして酸耐性幼虫の微生物叢には糖輸送関連遺伝子が乏しいことが分かりました。
  • 酸耐性幼虫に共存する微生物叢は幼虫の生育環境を反映したものであると考えています。

背景と内容

ユスリカは世界に約15,000種類、日本に約2,000種類いると推定されており、夏時期はどこでも見つかるほど身近な昆虫です。それらの幼虫は通常、10-25℃の河川や田んぼなどの水域に生息しています。しかし中には、温泉のような高温・酸性条件でも生存できる驚異的なユスリカもいます。そのような過酷環境に適応したユスリカを研究することで、生物の生存適応戦略の謎に迫ることができます。

近年、ユスリカ幼虫が環境中の高濃度重金属に対して耐性を持つには、幼虫に共存する微生物が何らかの役割をもつことが報告されています。つまり、生物が過酷な環境に適応するメカニズムとして、共存する微生物叢が関わっている可能性があります。そこで本論文では、広島大学で累代飼育している酸耐性Chironomus属ユスリカ幼虫3種と酸感受性の同属ユスリカ幼虫8種の微生物叢を調べ、ユスリカ幼虫の酸性環境適応メカニズムの理解を試みました。

海洋研究開発機構(JAMSTEC)主任研究員・若井暁博士(本学元研究員、本論文責任著者)が、次世代シーケンサーでユスリカ幼虫に共存する微生物叢をアンプリコンシーケンス解析しました。その結果、酸耐性幼虫の微生物叢は、酸感受性幼虫の微生物叢よりも多様性が低く(図1、左のグラフ)、その微生物叢の優占種は幼虫種ごとに独自のものでした。次に、微生物叢の機能性遺伝子の量を調べたところ、酸耐性幼虫の微生物叢では、糖輸送に関わる遺伝子量が酸感受性幼虫よりも乏しいことを見出しました(図1、右側のフラフ)。

本論文の結果は、酸耐性ユスリカ幼虫は糖にあまり依存しない微生物と幼虫種特異的な関係を築いてきたことを示すものです。中性環境に比べて酸性環境は、微生物のエネルギー源や炭素源として利用される糖類に乏しいと考えられ、酸耐性幼虫は環境に応じて独自の微生物叢を獲得してきたのです。本研究の成果は、生物の酸性環境適応メカニズム理解の第一歩になると考えています。

図1 
多様性解析(左)
機能性遺伝子量のボルケーノプロット(右)

論文情報

  • 掲載誌: Microbes and Environments
  • 論文タイトル: Species-specific Microorganisms in Acid-tolerant Chironomus Larvae Reared in a Neutral pH Range under Laboratory Conditions: Single Dataset Analysis
  • 著者名: 藤井創太郎a,b, 河合幸一郎a,三本木至宏a,c, 若井暁d*
    a) 広島大学大学院統合生命科学研究科, b) Diamond Light Source Ltd., Harwell Science and Innovation Campus, c) 広島大学瀬戸内CN国際共同研究センター, d) 海洋研究開発機構 超先鋭研究開発部門 *責任著者
    DOI:  10.1264/jsme2.ME23029.
【お問い合わせ】

広島大学 生物生産学部 藤井創太郎 
E-mail:sofuji*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)


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