令和5年度学位記授与式を行いました

2024年3月23日、令和5年度広島大学学位記授与式が行われ、生物生産学部生99名が卒業しました。

午前中に東広島運動公園で行われた式典の後、午後からは学部全体での学位記授与式を行い、授与式終了後には、各プログラム毎に屋外で記念撮影を行いました。

水圏統合科学プログラム

食品科学プログラム

応用動植物科学プログラム

分子農学生命科学プログラム

国際生物生産学プログラム

2023年度 卒業証書授与式 お祝いの言葉

          広島大学 生物生産学部 学部長 島田昌之

みなさん、卒業おめでとうございます。
生物生産学部を代表して、お祝いの言葉を述べさせていただきます。

「大学は人生の夏休み」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?大学に入るとバイト、旅行、サークル、と楽しいことばかりで、勉強をしていない、と言われていた時代の名残ですが、広島大学生物生産学部を卒業する皆さんは、社会に巣立つための準備期間として、卒業のための124単位を取得するだけでなく、様々な経験をしてくれたと確信しています。

皆さんの多くは、2020年4月入学です。入学式後のガイダンスも午前中のみ、メールアドレスの登録さえも自分自身で説明書を読みながら実施しなくてはならず、すべての講義がオンデマンド配信となったという大変な時に入学されました。2019年秋以降に蔓延したCovid 19ウイルスは、その感染に対抗するための抗体を持っていない人類社会に甚大なる影響をもたらしました。生物が未知の病原体が蔓延しても、その種を継続することができる1つの仕組みが、1塩基置換(SNP)と配偶子形成における染色体の組換えです。これにより産み出される多様性が、新たな感染症が発生しても、人類の継続性を担保してきたと言えると思います。このような多様性を産み出すのが、私が1年生の科目として担当している「細胞科学」の講義で、減数分裂の意義として紹介したのですが、覚えているでしょうか?

科学、今回のケースでは医学が発達した現在では、RNAワクチン技術や抗ウイルス剤の開発により、感染や重篤化リスクを低減できるようになりました。しかし、科学分野でも注目される研究に研究費が集中し、研究者数も分野ごとに大きな偏りがあります。日本では、感染症へのワクチン開発や抗ウイルス剤開発の研究への研究費が少ないので、日本はワクチンも輸入に頼って、数量確保に苦労するという事態になりました。研究者の分野の多様性も必要であるという警鐘と思います。

多様性=様々なバックグランドをもつ人が組織を作ることで、いろいろな考え方が集まり、いろいろな技術を持ち寄って、より良いものができていく、様々なことに対応していくことができます。様々な考え方、価値観を持つ人を排除するのではなく、一緒に議論して、多角的に最適解を探していくことが大事ですので、多様性、多様な社会が重要なわけです。

皆さんは、広島大学生物生産学部を卒業した「食や環境に関する高度専門人材」として、多様な社会の一員となります。つまり、主体的に食や環境に関する社会問題を解決する人材として期待されています。「主体的な学び」は、小学校から求められてきていますが、その教育によって、小さいころから自己目標を立て、それを完結する、自己達成感の比重が高まりすぎているのではないか?と懸念しています。

自分で何に興味を持ち、それを達成するための目標を立て、実行していく、それに何が問題なんだと思うかもしれません。しかし、行き過ぎると、自分の殻に閉じこもってしまい、もっと活躍できる分野や本来はもっと興味を持ったかもしれない分野を知る機会、それにチャレンジする機会を失っているのではないか、可能性の消失という機会損失です。特にAIのアルゴリズムによって、自分で調べているつもりが、自分の嗜好に合わせて提示されていることのみしか知る機会がなくなっているのが現代です。多様な情報に対して偶然に接することができない社会になっています。
また、行き過ぎた自己達成感は、他者からの「あなたはここに向いているかもしれない」という意見に耳を傾けなくなり、自身の能力を発揮する機会を消失することになります。自分はこれがしたいという主体性も大事ですが、視野を狭めすぎると潜在能力を発揮する機会を失ってしまいます。自分の中でも多様性を確保して、たまには自分を達観して見つめて、他者の意見も聞き、自問し、相談することも大事であることを忘れないでください。

半数の卒業生は広島大学の大学院に進学するので、大きな変化ではないかもしれませんが、もう2年後には社会に巣立っていきます。半数の卒業生は、もう、数日後の4月からの新しい社会(環境)での生活が始まります。それぞれに「がんばれ」とエールを送るとともに、一人では解決できない時は、社会の中にいることを忘れず、これまで同様、家族、友人に相談するだけでなく、すでに社会で活躍している生物生産学部の先輩方、これから生物生産学部に入ってくる後輩、そして卒論研究で苦楽を共にした研究室の仲間、指導教員という大学で得られた財産も活用してください。良いことでも悪いことでも、我々に相談できることがあれば、いつでも母校に帰ってきてください。そして、より良い母校にするために、時には厳しい意見を言ってくださればと思います。

最後になりますが、皆さん卒業おめでとうございます。皆さんの門出を祝し、日本の未来を支える人材として、多様な分野で活躍されることを祈念して、学部長のお祝いの言葉とさせていただきます。


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