広島大学 生物生産学部
生谷 尚士 E-mail:mikutani*hiroshima-u.ac.jp
中江 進 E-mail:snakae*hiroshima-u.ac.jp
(注: *は半角@に置き換えてください)
マスト細胞の活性化におけるIL-10の機能解析
〜IL-10はアレルギー疾患の治療薬になりうるか?〜
本研究成果のポイント
- IL-10ファミリーサイトカイン(IL-10, IL-19, IL-20, IL-22, IL-24, IL-26, IL-28及びIL-29)のうち、IL-10のみがマスト細胞の機能に影響を与えることを見出しました。
- IL-10はマスト細胞からの炎症誘導因子TNFの産生を抑制する一方、IL-6やIL-13の産生を増強する作用があることを見出しました。
- これまでIL-10は炎症を抑制するサイトカインと考えられてきましたが、マスト細胞の活性化を促進し、アレルギー疾患の症状の悪化に関わっている可能性が明らかになりました。
発表内容
鼻、眼、呼吸器、消化器などの粘膜に存在する免疫細胞「マスト細胞(肥満細胞)」は、寄生虫から身体を守る働きを担っています。マスト細胞の細胞膜上にはIgE受容体が発現しています。そのIgE受容体に、外敵を認識するIgEが結合しています。ただし、花粉などのアレルギー誘導物質(アレルゲン)に対してもIgEが作られます。アレルゲンがマスト細胞に結合しているIgEに認識されると、マスト細胞はアレルゲンを外敵と認識して、排除のために活性化します。その結果として、くしゃみ、鼻水、咳などといったアレルギー症状が現れます。つまり、マスト細胞の機能を制御できれば、アレルギー疾患の治療が可能になります。
インターロイキン(IL)と呼ばれるタンパク質は、離れた細胞の間でコミュニケーションを取るための情報伝達分子の一つです。そのうち、IL-10, IL-19, IL-20, IL-22, IL-24, IL-26, IL-28及びIL-29は、IL-10とアミノ酸配列に相同性を持つサイトカインで、IL-10ファミリーサイトカインと呼ばれています。
マスト細胞には、IL-10ファミリーサイトカインが結合するための受容体が発現していることがわかりました。そこで、IL-10ファミリーサイトカインはマスト細胞の機能に影響を与える可能性があると考えました。シャーレ内でマスト細胞を培養する際、IgEを加えると、マスト細胞は炎症を誘導するサイトカイン(IL-6, IL-13やTNF)を分泌します。ここにさらに、IL-10ファミリーサイトカインを加え、マスト細胞によるIL-6, IL-13やTNFの分泌量への影響を調べました。その結果、IL-10ファミリーサイトカインのうち、IL-10だけがマスト細胞によるIL-6, IL-13やTNFの分泌量を変化させることがわかりました。
IL-10は炎症を抑制するサイトカインとして有名で、IL-10を投与したマウスではある種の病気の治療効果が認められています。IL-10は、マスト細胞からのTNFの分泌を抑制できることがわかりました。ただし、IL-6とIL-13の分泌は抑制できず、むしろ、増強されてしまうことがわかりました。IL-10はIL-10受容体に結合すると、細胞内でSTAT1、STAT3、STAT5という転写因子を活性化させ、さまざまな遺伝子発現を誘導します。IL-10によるマスト細胞のIL-6とIL-13分泌の増強はSTAT1とSTAT3の両方が必要ですが、TNF分泌の抑制にはSTAT1とSTAT3は必要とせず、STAT5の関与が示唆されました。
アレルギー性喘息を誘導したマウスでは、IL-10は、気道の炎症を抑制できる一方で、気道過敏性は悪くしてしまう(気管支が狭くなり、呼吸困難になる)ことが報告されていましたが、その理由については長らく不明でした。気道過敏性には、IL-13が関わっています。したがって、IL-10は、マスト細胞からのIL-13の分泌を増強することで気道過敏性の亢進に関与していることが示唆されました。また、IL-10がマスト細胞のIL-6分泌を増強するとTh17細胞(免疫細胞の中心的な役割を持つT細胞の一種)の活性化を過剰に増強してしまうことを明らかにしました。Th17細胞も感染防御に重要な働きを担う細胞ですが、過剰なTh17細胞の活性化はアレルギー疾患だけでなく、さまざまな病気を増悪させてしまうことが知られています。
今回の我々の研究成果は、IL-10は炎症を抑制する機能だけでなく、逆に増悪する機能の二つの側面があり、その両方にマスト細胞が関与していることが明らかになりました。本成果をもとに、難治疾患であるアレルギー疾患の発症機序の解明が進むことが期待されます。

論文情報
- 掲載誌: Scientific Reports
- 論文タイトル: IL-10 promotes Th17 cell differentiation by enhancing STAT1-dependent IL-6 production via IgE-stimulated mast cells
- 著者名:Takafumi Numata, Masashi Ikutani, Ken Arae, Tatsukuni Ohno, Takayuki Yoshimoto, Katsuko Sudo, Hajime Suto, Ko Okumura, Hirohisa Saito, Kazutoshi Harada, Susumu Nakae
- DOI: 10.1038/s41598-024-77929-y.