広島大学 生物生産学部 上田 晃弘
E-mail:akiueda*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)
超耐塩性植物アイスプラントのゲノムの解読と塩ストレス応答機構の解明
本研究成果のポイント
- 海水でも自生可能なアイスプラントの染色体レベルでのゲノムを解読
- 塩ストレス下でのアイスプラントの網羅的遺伝子発現応答を解明
- 塩ストレス応答遺伝子発現に関わるシスエレメントの推測
研究成果
塩害は世界の乾燥地や沿岸部で発生し、農作物の生産性を減少させる農業問題となっています。そのため、塩害に強い耐塩性作物を作出することが農業上重要な課題となっています。多くの作物は塩害に弱いとされていますが、塩分濃度が高い沿岸部でも自生して世代交代できる植物が存在します。このような塩生植物の一つにアイスプラントがあります。アイスプラントは海水でも自生可能な超耐塩性機構を有していますが、その全貌は明らかになっていません。
本研究ではアイスプラントの高精度なゲノム解読を行うとともに、塩ストレス下における網羅的遺伝子発現解析や生理応答機構を解明することで、アイスプラントが持つ超耐塩性機構の解明を試みました。その結果、アイスプラントは2倍体で計18本の染色体構造(2n=9)を持つことが明らかとなりました。また、ゲノムサイズは約391 Mbpであり、塩害に弱いイネと同程度であることが明らかとなりました。アイスプラントは塩ストレスに応答して、光合成型をC3からCAMに変換することが知られていますが、網羅的遺伝子発現解析の結果、塩ストレス処理に応答してCAM光合成に関わる遺伝子発現の誘導が確認されました。その他、アブシジン酸(ABA)応答やNa輸送に関わる遺伝子群の発現誘導も確認されました。
超耐塩性を有する塩生植物のゲノム解読はあまり進んでいませんが、本研究成果により塩生植物が持つ超耐塩性機構を解明し、その成果を重要作物に応用するための素地を構築することができました。
本研究は科研費(20KK0129)および広島大学大学院統合生命科学研究科・融合研究支援の助成を受けて行われました。

アイスプラントのゲノム構造(2n=9)

塩ストレス応答に関わる遺伝子群のプロモーター領域のシスエレメントの同定
論文情報
- 掲載誌: Physiologia Plantarum
- 論文タイトル: A Chromosome-Level Genome Sequence Reveals Regulation of Salt Stress Response in Mesembryanthemum crystallinum
- 著者名: Koichi Toyokura, Ken Naito, Koyuki Makabe, Mami Nampei, Hiroki Natsume, Jutarou Fukazawa, Makoto Kusaba, Akihiro Ueda
- DOI: https://doi.org/10.1111/ppl.70057