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【論文公開】応用動植物科学プログラムの鈴木直樹准教授らの論文が公開されました

乳房炎の原因微生物を迅速に診断する技術を開発

本研究成果のポイント

  • 乳牛の乳房内感染症である乳房炎の原因微生物をその日のうちに検出する技術を開発
  • 同時に炎症の状態を詳細に把握できる可能性を示唆
  • 初診における根拠に基づく抗菌薬使用の一助となる

研究成果

背景

乳房炎は乳牛の乳房内感染症であり、乳牛に発生する疾病のうち最も件数の多い疾病です。診断には微生物学的検査が必要ですが、これまでは培養に基づく検査を行っていたため、結果を得るのに1日以上必要でした。このため、初診における治療戦略の構築は、原因微生物の疫学的情報や経験に基づいて行われてきました。これにより、時に不適切な抗菌薬使用を招き、本来廃棄する必要がなかった生乳の廃棄や、近年の喫緊課題である薬剤耐性問題に結びつく可能性が指摘されています。この問題を解決するため、初診時に乳房炎の原因微生物を迅速に診断する技術の開発に取り組みました。

研究成果の概要

ヒト医療現場では、細菌感染症の診断に、培養法と併用して生体材料(喀痰、尿など)を直接グラム染色鏡検することにより、迅速な原因微生物の推定とそれに基づく治療戦略の構築を実施しています。これをヒントに、我々は以前、乳房炎乳の遠心沈渣(沈殿物)を生理食塩水に再懸濁しグラム染色に供した(以下乳グラム染色)ところ、そこに含まれる細菌やウシ由来の細胞(体細胞)が明瞭に観察できることを報告しています(図)。今回新たに、この鏡検像をもとに乳グラム染色の微生物検出感度、特異度および検出限界を算出したところ、ヒト医療で用いられるグラム染色のそれと同等であり、獣医畜産領域の乳房炎診断でも有用だと分かりました。また、体細胞を観察することでそこに含まれる好中球の割合を顕微鏡下で算出することができ、その割合が高いほど、抗炎症サイトカインであるインターロイキン10の乳中濃度が低いことも新たに分かりました。

波及効果・展開

乳房炎原因微生物の迅速診断法は、世界中で様々なアプローチにより開発されています。なかでも乳グラム染色は、導入施設において特別な装置を必要とせず、ランニングコストも安価な普及性の高い技術です。この技術の普及により、廃棄乳削減による生乳安定供給ならびに酪農経営損害の削減、さらには食料生産動物への抗菌薬適正使用による薬剤耐性問題解決への貢献にも繋がると考えています。

本研究は、令和4年度日本中央競馬会畜産振興事業「普及性の高い乳房炎迅速診断技術開発事業」の助成を受けて行われました。


乳グラム染色により観察された病原体(矢印)
左:Staphylococcus aureus、右:Escherichia coli
 

論文情報

  • 掲載誌: Frontiers in Veterinary Science
  • 論文タイトル: Determining causal pathogens and inflammatory state of mastitis in dairy cows via Gram staining of precipitates in milk
  • 著者名: Naoki Suzuki and Naoki Isobe
  • DOI:  10.3389/fvets.2024.1492564
【お問い合わせ】

広島大学 生物生産学部 鈴木 直樹
Tel:082-424-4182 
E-mail:naosuzuki*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)


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