広島大学 生物生産学部
島本 整 E-mail:tadashis*hiroshima-u.ac.jp
Jant Cres Caigoy E-mail:jccaigoy*hiroshima-u.ac.jp
(注: *は半角@に置き換えてください)
Vibrio mimicusの新たなレトロンの解析
〜種を越えたレトロンの転移とレトロン単独での転移の可能性〜
本研究成果のポイント
- コレラ菌(Vibrio cholerae)の類縁菌であるVibrio mimicusにおいて逆転写酵素遺伝子(ret)を含む新たなレトロン(Vmi1)を発見し、解析を行いました。
- ゲノムデータベースの解析から、同じ配列のレトロンが種を越えて存在していることを初めて明らかにしました。
- レトロンを保有していないV mimicusゲノムやV. anguillarumゲノムなどとの比較から、レトロン-Vmi1が二段階でtRNAジヒドロウリジン合成酵素遺伝子(dusA)に挿入されていることが明らかになりました。これはレトロンが単独でゲノム間を転移する可能性を示した初めての例となりました。
発表内容
背景
レトロンは逆転写酵素遺伝子(ret)を含むオペロンであり、直接あるいはプロファージを介して細菌ゲノムに挿入されていることから一種の可動性遺伝因子(mobile genetic element, MGE)であると考えられています。また、逆転写酵素はmsDNA(multicopy single-stranded DNA)と呼ばれるRNA-DNA複合体の合成に不可欠であることが知られています。レトロンにはret遺伝子とmsDNAをコードする領域(msr-msd)以外に機能未知のORF(open reading frame)が含まれる場合があります。近年の研究においてレトロンは細菌のファージ感染防御の役割を担っていることが明らかになっており、レトロンを新たなゲノム編集ツールとして利用する応用研究も進んでいます。
Vibrio mimicusはコレラ菌(Vibrio cholerae O1/O139)やナグビブリオ(V. cholerae non-O1/non-O139)の類縁菌であり、さまざまな毒素を保有する食中毒の原因菌として知られています。レトロンはビブリオ属細菌などの病原細菌を含む原核生物に広く分布しています。
研究成果の概要
本研究ではまずV. mimicusより新たなmsDNAを単離し、塩基配列の解析を行いました(図1)。その配列に基づいてレトロンをクローニングして解析を行い、レトロン-Vmi1と命名しました。レトロン-Vmi1はret遺伝子とmsr-msdの間に機能未知のorf323を保有しており、遺伝子構成や推定アミノ酸配列はサルモネラ(Salmonella enterica serovar Typhimurium)のレトロン-Sen2、大腸菌のレトロン-Eco3、V. choleraeのレトロン-Vch2などと類似していました。

図1
msDNA-Vmi1の推定二次構造
ゲノムデータベースの解析から、同じ配列のレトロンが種を越えてビブリオ・バルニフィカス(V. vulnificus)や腸炎ビブリオ(V. parahaemolyticus)に存在していることを初めて明らかにしました(図2、図3)。さらに、レトロンを保有していないV mimicusゲノムやV. anguillarumゲノムなどとの比較から、レトロン-Vmi1が二段階でインテグラーゼ遺伝子などとともにtRNAジヒドロウリジン合成酵素遺伝子(dusA)に挿入されていることを明らかにしました(図3)。この結果はレトロンが単独でゲノム間を転移する可能性を示した初めての例となりました。

図2
V. mimicusの逆転写酵素(RT-Vmi1)と
他の細菌逆転写酵素のアミノ酸配列に基づくハプロタイプネットワーク

図3
ビブリオ属細菌におけるレトロン-Vmi1(V. mimicus CS30)と
その周辺領域のゲノム配列の比較解析
レトロン-Vmi1が二段階でdusA遺伝子に挿入されている
本研究は、科研費・基盤研究(C)(18K07113, 21K07025)の支援により実施されました。また、本論文の掲載につきましては、広島大学とWiley社との転換契約によるAPC支援を受けました。
論文情報
- 掲載誌: Microbiology and Immunology
- 論文タイトル: Genetic characterization of a novel retron element isolated from Vibrio mimicus
- 著者名:Jant Cres Caigoy,1 Toshi Shimamoto,1 Yojiro Ishida,2 Ashraf M. Ahmed,3 Shin-ichi Miyoshi,4,5 Tadashi Shimamoto1,*
1) 広島大学大学院統合生命科学研究科
2) Department of Structural Biology, Protein Technologies Center, St. Jude Children's Research Hospital
3) Department of Bacteriology, Mycology and Immunology, Faculty of Veterinary Medicine, Kafrelsheikh University
4) 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
5) 岡山大学腸健康科学センター
* 責任著者 - DOI: https://doi.org/10.1111/1348-0421.13181