広島大学 生物生産学部
JAISUE JIRAPAT E-mail:jaisue*hiroshima-u.ac.jp
(注: *は半角@に置き換えてください)
エンドトキシン寛容はヤギの乳房炎を抑制する
本研究成果のポイント
- リポ多糖(LPS)などの細菌成分が、子宮から乳腺へ移行する可能性が示唆された。
- 子宮内へのLPS連続投与により、乳腺における白血球機能が向上した。
- 白血球機能が強化されたヤギは、LPS排除能力が向上し、その結果、乳房内LPS投与に対する炎症反応が緩和されることを示した。
研究成果の概要
乳房炎は乳腺の炎症性疾患であり、乳牛に最も多く発生する疾病の一つです。これは乳量の減少や治療費の増加を引き起こし、畜産業に甚大な経済的損失をもたらすと報告されています。乳房炎は通常、乳頭口から侵入した細菌感染によって発症します。しかし、グラム陰性細菌の細胞壁成分であるリポ多糖(LPS)を子宮内に1日1回5日間連続投与した実験では、乳中の体細胞数(SCC、炎症の指標)は投与翌日に一時的に増加し、3日目には減少しました。この結果は、LPSの継続的な子宮への刺激が乳房炎を誘起したことおよびLPSに対する感受性を低下させ、乳腺でいわゆる「LPS寛容(tolerance)」を誘導した可能性を示唆しています。しかし、LPS寛容状態下における乳腺の具体的な免疫機能変化は未だ不明です。そこで、本研究ではLPS寛容状態下の乳中白血球機能を解析することを目的としました。
ヤギに対して、3日間連続で子宮内にLPSを投与し、LPS寛容状態を誘導しました。その後、乳腺内にLPSを注入しました。その結果、LPS寛容状態ヤギは乳腺内にLPSを注入しても炎症反応が抑制されました。さらに、貪食能およびCD11b発現によって評価された白血球活性は、LPS寛容状態ヤギにおいて対照群よりも高値を示しました。これらの結果は、反復的な子宮内LPS投与が乳腺における寛容を誘導し、白血球機能を亢進させることで、細菌のクリアランスを改善し、以降の乳腺内LPS刺激に対する炎症反応を緩和することを示唆しています。
LPS寛容状態下では、動物が過剰な炎症反応を効果的に制御できる可能性があり、これは炎症性疾患に対する新たな治療戦略の構築に寄与すると期待されます。本研究はヤギを用いたモデルで実施しましたが、今後は乳牛における乳房炎による損傷を軽減するためのLPS寛容の応用の可能性について検討する予定です。

論文情報
- 掲載誌: Innate Immunity
- 論文タイトル: Mammary leukocytes function of endotoxin tolerant goat induced by intrauterine infusion of lipopolysaccharide
- 著者名: Jirapat Jaisue, Naoki Suzuki, Takahiro Nii, Naoki Isobe
- DOI: 10.1177/17534259251341659
- 広島大学研究者ガイドブック(JAISUE JIRAPAT 特任助教)
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