広島大学 生物生産学部
島田 昌之 E-mail:mashimad*hiroshima-u.ac.jp
(注: *は半角@に置き換えてください)
男性ホルモンが「精液の質」を整えるしくみを解明〜精嚢で糖からオレイン酸を作り、精子の“直進力”を高める〜
本研究成果のポイント
- 男性ホルモン(テストステロン)が、精液の主成分を作る精嚢(せいのう)の細胞の代謝を切り替え、糖から脂肪酸を作らせることを示した。
- その結果、精液中のオレイン酸(身近な食用油にも多い脂肪酸)が増え、精子がまっすぐ泳ぐ能力(直進性)が高まる可能性が示された。
- 将来的に、精液中の脂肪酸が男性不妊や加齢に伴う精液の質低下、低テストステロン状態の新しい手がかり(指標)になる可能性がある。
研究成果の概要
不妊の原因は男女どちらにもあり、男性側の要因が関わる割合も高いとされています。精子そのものだけでなく、精子が入っている液体成分である精漿(せいしょう)も、精子の動きや受精のしやすさに影響します。ところが、精漿の多くを作る精嚢で「何が、どのように作られ、精子にどう効くのか」は未解明な点が多く残っていました。
本研究ではマウスを用い、精嚢由来の成分が精子の運動に与える影響を調べました。その結果、精嚢由来の成分に触れた精子は、ただ速く泳ぐだけでなく、「直進的に泳ぐ(まっすぐ進む)」性質が高まることが示されました。また、男性ホルモンの働きを妨げる薬剤(フルタミド)で処理したマウスや、加齢個体では、この効果が低下することが示され、精嚢機能が男性ホルモンに依存している可能性が見えてきました。
次に、精嚢の上皮細胞(精漿成分を合成・分泌する細胞)に注目し、男性ホルモンが細胞内の代謝をどう変えるかを解析しました。男性ホルモンは、細胞に糖を取り込ませる仕組み(GLUT4)を介して糖の利用を促し、さらにACLYという酵素が重要な役割を果たして、糖の炭素を脂肪酸合成へ回すことが示されました。特にオレイン酸が増え、細胞培養上清(細胞が分泌した成分を含む液体)を精子に触れさせると精子直進性が高まる一方、ACLYを抑えるとこの効果が弱まることが示されました。
さらに、市販のヒト精嚢上皮細胞でも、男性ホルモン刺激により糖取り込みと脂肪酸(とくにオレイン酸)分泌の促進が同様に見られました。今後は、オレイン酸が「精子の直進性」や「受精成立」にどこまで直接的に効くのかを、より厳密に検証していきます。将来的には、精液中の脂肪酸組成が精液検査の新たな指標になったり、生殖補助医療や家畜繁殖で用いる精液処方(培地・保存液)改良に繋がる可能性が期待されます。
本研究成果は2025年12月18日付で、国際科学雑誌 「eLife」 に掲載されました。
研究成果の概要図
論文情報
- 掲載誌: eLife
- 論文タイトル: Testosterone-Induced Metabolic Changes in Seminal Vesicle Epithelium Modify Seminal Plasma Components with Potential to Improve Sperm Motility
- 著者名: Takahiro Yamanaka, Zimo Xiao, Natsumi Tsujita, Mahmoud Awad, Takashi Umehara, Masayuki Shimada
- DOI: https://doi.org/10.7554/eLife.95541.4

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