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SiC減速材を用いた低エネルギー陽電子ビームの高効率生成法-これまでにない高強度低エネルギー陽電子パルスビームをめざして-

本研究成果のポイント

〇電子線形加速器を用いた低エネルギー陽電子蓄積および陽電子パルスビーム生成において、陽電子の蓄積効率を従来の5倍以上にする実用的な方法を実証しました。

〇本研究におけるSiC減速材を用いた低エネルギー陽電子蓄積法は、マイクロ秒オーダーの典型的な陽電子パルスビームに対して適用可能であり、低エネルギー陽電子ビームの強度増加につながります。

〇後段に陽電子を長時間蓄積可能な装置を導入することにより、さらなる高強度陽電子ビームを生成し、これまでできなかった実験研究を展開することが可能になります。

概  要

 低エネルギーの陽電子ビームは金属・半導体などの欠陥構造の特性を調べるために利用されたり、固体物性の研究及び、陽電子やポジトロニウムを用いた基礎物理研究に使われたりしています。

 本研究では電子線形加速器から供給される高エネルギー電子ビームを標的に当てて、対生成によって生じた陽電子を利用します。従来、この高エネルギーでエネルギー幅の広い陽電子を減速材に入射し、低エネルギーでエネルギー幅の狭い陽電子ビームとして取り出すことにより利用してきましたが、この低エネルギー陽電子ビームの強度を上げることができると、これまでできなかった実験研究を展開することが可能になります。

 今回、電子線形加速器を用いた低エネルギー陽電子蓄積および陽電子パルスビーム生成において、陽電子の蓄積効率を従来の5倍以上にする実用的な方法を実証しました。具体的には、中心に穴の空いた構造を持つ円形平板状のSiC減速材を低エネルギー陽電子蓄積器に初めて導入し、約5%程度であった蓄積効率を約25%以上にできることを確認しました。

 欠陥が少なく結晶性の良いSiCを用いるとさらに蓄積効率の改善が期待できます。また、現在の蓄積器の後段に陽電子を長時間蓄積可能な装置を導入することにより、さらなる高強度陽電子パルスビームの生成が可能となるため、従来不可能であった高密度ポジトロニウムの量子凝縮状態や電子-陽電子プラズマの実験、などが可能になると期待できます。

【論文情報】
K. Michishio, H. Higaki, A. Ishida, and N. Oshima, Efficient positron trapping and extraction with a center-hole SiC remoderator, New Journal of Physics 24 (2022) 123039. https://doi.org/10.1088/1367-2630/acacbc


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