第10回 角屋豊教授

応用物理学への誘い

角屋 豊 教授

 このコラムを書くにあたって,先に書いた人のものを読みましたら,多くは今の自分に至るエピソードを書いておられました。私の場合も似たり寄ったりで,幾つかの偶然と必然を経て今に至っておりますので,ちょっと違う事を書こうと思いますが,このコラムの読者がよくわかりませんので,なかなか難しいところです。そこで,あわよくば進路に迷っている高校生が読んでくれることを期待して,「応用物理学への誘い」ということにしたいと思います。模擬授業などで高校を訪問した際に受ける質問に,工学部と理学部は何が違うかというものがあります。先生から質問されたこともあります。おそらく高校の理科の先生は(教員免許の関係もあって)ほとんど教育学部か理学部をご出身のためと思います。私自身も大学入試の時,違いを理解していたわけではなく,最初は理学部を受験するつもりでしたが,結局工学部を受験しました。違いを意識したのは大学の教員になってからです。

 さて本題ですが,昨今では理工学部というものもたくさんありますので,学部というよりは分野の違いで考えた方がよいでしょう。私が関係するところでは物理学と応用物理学の違いとなりますが,一言で言えば前者の目指すものは物理現象の理解を極める,後者は名称の通り物理現象を応用・実用することを目指すということでしょう。最終的な目的という意味では明確に違いがありますが,現実には両者の境界はあいまいで,物理現象の理解を極める中で実用的な技術が生まれることもあれば,応用・実用を考える中で,ある物理現象の本質を理解する必要も出てきますし,その結果,物理学に貢献することも多々あります。これらの例はたくさんありますが,私の研究分野(光デバイス)での最近の例では,光が異種媒質の境界面を通るときの屈折の法則(スネルの法則)があります。近年,境界面にナノスケールの構造を作りこむことで新規な光制御を実現する研究が盛んです。この場合,屈折方向を表すために境界面の性質を含めた法則に拡張する必要があることが示されました。

 応用物理学という分野の楽しさの1つは,応用・実用を目指しつつも,必要性や興味に応じて物理現象の本質にも深く関わることができる点にあると思っています。ちなみに,この分野の最大の学会である応用物理学会は現会長の言葉にもあるように「工学マインド」です。また,応用・実用のためには様々な分野の成果を組み合わせることも重要で,これも応用物理学,工学の面白さの1つと言えるでしょう。従って,興味の幅が広く,一つに絞りたくない(とは言っても一応専門というものはあります)という人に向いた分野とも言えると思います。物理学とその応用の両方が楽しめる応用物理学の世界に多くの若い方が入ってこられることを期待しています。

 最後に少しだけ個人的なことを書くことにします。今は空前の猫ブームの様です。我が家は世の中の動きには疎いのですが,猫好きがそろっていて,たまたま時流に合っています。残念ながら私が猫アレルギーのため,手放さざるを得なくなりましたが,一時飼っていた猫の写真を載せておきます(単にこれを載せたかっただけ)。

(2016年11月30日掲載)

角屋先生と猫


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