第18回 檜垣浩之准教授

卒業論文の季節

檜垣 浩之 准教授

 私は一応ホームページを公開していますが、あえて個人的な意見は書かないようにしているので単なる事実の羅列になっています。そこで、せっかくの機会ですので少し個人的な意見を述べてみたいと思います。

 現在、2018年2月初めということで、各大学では卒業論文や修士論文の指導で多忙なことかと思います。多くの場合これらの論文は日本語で書かれるわけですが、学会などで他大学の先生なども含めて時々耳にするのは、「卒業論文といいつつほとんど日本語の文章の書き方指導になっていて内容の議論まで行きつかない」というものです(もちろん論理的な文章の書き方も指導内容の一部ではありますが)。想像するにこれは多くの学生さんにとってある程度まとまった論理的な文章を書くのが初めてであるということに原因があると思います。理由がどうであれ、せっかくの卒業論文指導が日本語の書き方指導になってしまうのは指導する側にとってもされる側にとっても残念なことであると思います。

 実際には小学校の段階から国語の授業の一部として短い論理的な文章を書く内容が含まれているのは承知しているのですが、中学・高校での取り扱いがどのようになっているのかは知りません。現実問題として学部4年の学生さんが書き上げた文章が多くの場合、日本語の文章の構成をやり直さなければならないというのは、小中高における論理的な文章を書くための教育が残念ながら浸透していないということを意味していると思います。

 そこで一つの提案として4年生の前期(もしくは3年生の後期)にエッセイライティングの講座を検討してはどうでしょうか?日本語でエッセイというと感想文や随筆文のようなものを想像しがちですが、ここではそのようなものではなく、もう少しパラグラフライティングを意識した意見を述べる、議論を展開する文章を意味しています。これは単なる講義ではなく2,3の簡単なエッセイを書いてもらう演習的な内容を想定しています。3年生の後期であれば就職活動の役に立つかもしれませんし、理工系であれば修士課程に進学する学生さんのほうが多いので4年生前期でも良いかもしれません。

 上記の話はあくまで理想的な話であって、実現しようとすると誰が教えるのか、だれが膨大な量の提出物を採点するのかというような問題が生じてきます。しかしながら、昨今大学で何を身につけることができるのかというような議論があったりしますので、卒業論文一本槍で論理的な文章を書く能力が身につくと主張するよりは、短くてもよいので何度か論理的な文章を書く練習をしてもらったほうが良いのではないかと思う次第です。最近は「パラグラフライティング」という単語をタイトルに含む書籍(英文を念頭においているものが多いようですが)も随分出ているようですし、論文の書き方に関する書籍も多数出ていますので、そのような本を学生さんに配布するだけでも意味があるかもしれません。

 以上、卒業論文を書いたことのない教員がつぶやいてみました。

ベルン(スイス)

ベルン(スイス):写真と本文は関係ありません

(2018年3月1日掲載)


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