第6回 高橋徹准教授

第6回 「サイエンス×ハローキティ」

高橋 徹 准教授

 私は素粒子実験という分野を研究しています。万物の根源とはなにか,我々の宇宙はどのようにして始まったのか,ということが研究の主題です。素粒子の研究方法はいろいろあるのですが,その一つに加速器という装置を使って,素粒子同士をとても高いエネルギーで反応させて,宇宙が始まった直後の様子を調べるという方法があります。そのため,素粒子実験は高エネルギー物理学とも呼ばれます。

 このような実験に使う加速器施設はとても大きなものになります。現在世界最大のものは,スイスとフランスの国境にあるLHCと呼ばれる円形の加速器で,周長27kmにも及びます。私たちはその次の加速器として,延長約31kmの直線型の加速器,国際リニアコライダー(ILC)を計画しています。世界中の研究者が協力して世界に1台のILC実現に向け努力をしているのですが,今もっとも有力な建設候補地は日本です。

 このような大型装置の建設にはお金もかかります。その実現には研究者だけでなく,広く一般の方々の理解が必要です。素粒子物理学は,一般の方にとってかけ離れたイメージがあります(イメージではなくて本当にそうなのでしょう) 。私達もそのことを重視して,いろいろな努力をしてきました。本を書いたり,学校を訪問したり,講演会やサイエンスカフェを開催したり,,,ですが,まだ多くの方に知られているとは言えない状況です。

 そこで,これまでとはひと味違った方法を試みようとしています。その一つがサイエンス×ハローキティです。サイエンスとキティという異色の組み合わせですが,キティちゃんと宇宙の原理を記述する方程式をデザインした,キーホルダー,ボールペン,クリアファイル,Tシャツが発売されます。今回その発売を前に,この新しいキティグッズの発表記者会見を行いました。

新しく発売予定のキティグッズ。

新しく発売予定のキティグッズ。キーホルダー,ボールペンとTシャツ。

 発表会見では,リニアコライダーコラボレーションディレクターのリン・エバンスさん,副ディレクターの村山斉さんが,キティちゃんのTシャツを着て登場して記念撮影となりました。キティちゃんを囲んでにこやかに笑っているお二人ですが,村山斉さんは東京大学カブリ数物連携研究機構の機構長,リン・エバンスさんは先ほどお話した世界最大の加速器LHCの建設責任者という,素粒子物理学業界を代表する世界的な科学者です。

 

キティちゃんを囲んでリン・エバンス博士(左)と村山斉博士(右)

キティちゃんを囲んでリン・エバンス博士(左)と村山斉博士(右)
手に持っているのは発売予定のクリアファイル。

 

 さすがキティちゃん。この話題をfacebookページに投稿したところ,3日で2000人近い方が見に来てくれました。yahooニュースをはじめ,ネットのニュースにも取り上げて頂くことができました。

 私も早速1セット予約しました。発売は9月の予定です。今後,いろいろなイベントなどでサイエンス×キティのグッズが並ぶことになります。見かけることがあったら是非購入をご検討ください。沢山の方に親しみを持って頂くきっかけになれば良いと思います。

 

 キティグッズ発表記者会見の後はILC東京イベントを行いました。このイベントにもこれまで私達が行ってきた講演会などではあまりおめにかかることがなかった,経済界,IT関連,作家,芸術家の方々に来て頂きました。

 シンポジウムでは,エバンスさん村山さんがILCの目指すことやその意義ついて,分かりやすく語りました。「異なる宗教や文化はもちろん,政治的に対立している国々からの研究者が宇宙の真理を探るために一緒に研究している」という話は特に印象的でした。

 後半は,来て頂いた皆さんと研究者がリラックスした雰囲気で語りあう懇親会でした。短い時間でしたが会場のいたるところで宇宙や素粒子の話題に花が咲いていました。

 

 このイベントを機にILCのみならず,基礎科学についてもっともっと多くの方に知って頂くよう今後も努力していきます。

 

 

 (2016年7月29日掲載)


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