特色

防災・減災という面で、中国地方における大きな課題は、この地域の土砂災害危険箇所が極めて多いことにある。土砂災害危険箇所は全国で約52万5千箇所あるとされているが、広島県は3万2千箇所と全国で最も多くなっており、中国地方全体では9万5千か所と全国の18%が集中している。これは、崩壊しやすい風化した花崗岩からなる山地が海岸近くまで迫る地形環境のもと、瀬戸内海に面した小規模な平野部や山間の小盆地に都市や集落が成立し、発展してきた地理的・歴史的背景が大きく影響している。

一方、近年では、大都市圏が外縁的に広がるとともに、高度に発達した交通などのインフラによって都市間が結びつきを強め、全国規模の物流システムや人的流動によって生活や産業活動が支えられる複雑な社会経済システムとなっている。このような状況下で、豪雨によって土砂災害と洪水災害が複合的に生じた場合、その被害は直接的な災害発生場所のみにとどまらず、交通や水道などのインフラを遮断することで被害は相乗的に拡大し、広域的で長期的なものとなる。

特に、広島県では都市間交通が狭小な谷底や急な斜面を縫うように橋梁や土盛り、トンネルなどでつながっており、土石流、斜面崩壊、河岸侵食、橋梁流出、溢水・越水氾濫などにより交通の遮断が発生しやすい場所となっている。また、広島市を流れる太田川から水系を越えて、離島にまで配水する広域的な上水道システムでも、交通と同様に厳しい地形環境のなかで整備されている。西日本豪雨災害で生じた広島県南部の多面的で長期的な被害は、現代日本社会の起こりえる相乗型豪雨災害の典型例ということができる。

地球温暖化が指摘され、豪雨災害が増加する傾向のなか、相乗型豪雨災害に焦点をあてて現代社会の脆弱性を踏まえたリスク管理とレジリエンスに向けた防災システムの構築は現代日本社会の喫緊の課題であるといえる。

本センターは、
①この様な風土、地形、文化の背景のもとに発生する特徴的な自然災害である「相乗型豪雨災害」を主な研究対象とし、
②全学から関係する研究者を集結させ、分野融合型の調査研究部門を設置して、
③調査研究成果を地域や社会に情報として還元し、各種政策の策定や実施に貢献することを目的に設置する。

呉広島道路の盛土崩壊

土石流氾濫域(推定)と道路ネットワーク


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