第21回 小島由継教授

持続可能社会に向けたエネルギー貯蔵の役割

小島 由継 教授

 2015年12月12日、第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出を今世紀後半に実質ゼロにすることを目指すパリ協定が採択されました。2016年11月4日にパリ協定は発効し、2016年11月8日に日本はパリ協定を承認しました。パリ協定では「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5 ℃に抑える努力を追求する」との目標を掲げています[1]。産業革命以降、今までで既に約2兆トンのCO2が排出されて気温が約1℃上昇しています[2, 3]。残りの温度上昇は最高1℃です。これはCO2排出量に換算すると1兆トンとなります。日本は2030年までに2013年度比温室効果ガス排出量を26%、2050年までに80%削減を目指しています[2, 3]。
 このような背景から、循環型でCO2を発生せず持続可能社会(サステナブル社会)基盤の形成に貢献し得る再生可能エネルギー(太陽熱・光、地熱、風力、バイオマス、水力等)は,クリーンな次世代エネルギーとして注目されています。なかでも究極の持続可能な自然エネルギー源は無尽蔵な太陽エネルギーです。地球に降り注ぐ太陽エネルギー密度は最大1kW/m2と小さいのですが。その1年間のエネルギー量は人類が1年間に消費している一次エネルギー量の約10000倍も大きくなります[4]。現在、太陽電池(単結晶シリコン)のモジュール変換効率は20%程度です[5]。これから得られる電力は最大200W/m2、日本の1年間の平均稼働率14.09%より、発電量は247kWh/m2となります[6]。日本の発電の供給量は1年間で約1兆kWh(2016)[7]より、0.42×1010m2(65km×65km)の太陽電池で供給可能です。これは日本全土の面積の1.1%とほぼ等しくなります。
 しかしながら、再生可能エネルギーから得られた電気エネルギーは時間的、空間的(ローカル、グローバル)に変動するためエネルギー貯蔵技術の開発が重要になっています。水素は水の電気分解により得られますが、その大規模貯蔵・長距離輸送するための水素、エネルギーキャリアの開発が大きな課題です。これまで、私たちは種々の水素吸蔵物質(水素吸蔵合金、無機水素化物、炭素系物質、液体水素化物)の研究を行ってきました。その研究を通じ、グローバルに再生可能エネルギーを平準化するための水素、エネルギーキャリアとしてアンモニアに注目しました。現在、アンモニアから高純度水素製造や安全対策用等アンモニア吸蔵物質に関する基礎・応用研究を行っています。一方、ローカルに再生可能エネルギーを平準化するために、エネルギー効率とエネルギー密度の高い二次電池に注目しています。その中で、様々な水素吸蔵合金や無機水素化物を用いたニッケル金属水素化物電池やリチウムイオン二次電池に関する研究を行っています。
 以上より、再生可能エネルギーを広く普及させるために,エネルギー貯蔵が必要不可欠です。図1に示すように、現在、日本の再生可能エネルギーの電源比率は16.1%であり、諸外国に比べ低い水準にあります[8]。また、日本のエネルギー自給率(2016年)もわずか8.3%[9]、7%[10]です(図1参照)。今後、高性能アンモニア吸蔵物質や水素吸蔵物質を開発し、世界のCO2削減と日本のエネルギー自給率の向上に貢献したいと考えています。 

 

各国における再生可能エネルギーの電源比率[8]とエネルギー自給率

図1. 各国における再生可能エネルギーの電源比率[8]とエネルギー自給率[10]

参考文献

[1] パリ協定の概要(仮訳)
  http://www.env.go.jp/earth/ondanka/cop21_paris/paris_conv-a.pdf
[2] 環境省、地球温暖化対策の概況について、平成29年6月
  http://www.chugoku.meti.go.jp/event/enetai/pdf/170529_5.pdf
[3] 相澤寛史、再生可能エネルギーを活用した水素地域・社会の実現に向けて、
     水素エネルギーシステム、44、1-2 (2019)
[4] National Petroleum Council, 2007, after Craig, Cunningham and
      Saigo republished from IEA 2008b
[5] 太陽光発電の変換効率 
      http://standard-project.net/solar/hikaku_efficiency.html
[6] 太陽光発電に向いている地域とは?県別発電量一覧・地域別の季節変動グラフ
      http://standard-project.net/solar/region/ 
[7] 資源エネルギー庁総務課戦略企画室、平成28年度(2016年度)における
      エネルギー需給実績(確報)平成30年4月
    https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/pdf/stte_024.pdf
[8] 資源エネルギー庁、再生可能エネルギー
    https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/outline/index.html
[9] 日本のエネルギー
  https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/pdf/energy_in_japan2017.pdf
[10] 平成29年度国際エネルギー情勢調査
      (諸外国のエネルギー政策動向及び国際エネルギー統計等調査事業)
       外国のエネルギー政策動向に関する調査報告書-経済産業省資源エネルギー庁委託調査-、
       平成30年2月 一般財団法人日本エネルギー経済研究所
    https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H29FY/000219.pdf

(2019年5月)


up