治療薬効学

小澤 孝一郎 教授

【研究キーワード】
小胞体ストレス、オートファジー、創薬、神経変性疾患、代謝性疾患、アルツハイマー病、肥満、糖尿病

【最近のハイライト】
 「小胞体ストレス」が病気の原因ならば、小胞体ストレスを軽減できる薬物は病気の治療薬として有効であると考えられます。しかも、このような薬はストレスの根本原因を軽減できる可能性があるため、現在数多く存在する対症療法ではなく根本的療法に貢献できる可能性があります。実際に私達はそのような観点から、新薬の探索を行ったところ、小胞体ストレスを軽減出来る新しい薬物を明らかにすることに成功しました。さらに、その薬物を肥満モデルマウスに与えたところ、肥満を改善させることも明らかにしました。従って、小胞体ストレスを標的とした薬物は将来、生体を健康な状態にもどす新しいタイプの薬として活躍する日が来るかもしれません。

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【教育内容】
研究を通して、自ら問題を提起し、解決できるような人材育成=有能な薬剤師や研究者の養成を目指している。さらに、毎週行われる研究室セミナーや学会発表を通して、プレゼンテーションの能力を養い、場面に応じた自己発信能力の向上を培っている。留学生の受け入れも積極的に展開しており、日本人学生にとって留学生とのふれあいを通して、国際性を身につけることが可能である。

【研究内容】
 「生体の細胞が受けるストレスに対する応答機構の解明とその正常化による疾病治療」
 私達は、日常生活において様々なストレスにさらされています。そして生体は、それらのストレスが過剰になり適応できなくなった場合、病気になってしまいます。例えば、強い急性のストレスは「悲しみで何も喉を通らない」というような状態が起こるように、食欲を減退させます。また、アレルギーや、うつ病の発症にも精神的ストレスが関わっていることがわかっています。
 私達が日頃実感するストレスは生体レベルで起きますが、生体を構成する個々の細胞レベルでも起こることが知られており、それが様々な病気の原因となっているのではと考えられはじめています。
 細胞でも、ストレス下では、まず適応反応を引き起こし、ストレスに応じた対抗処置機構を作動させます。私達の研究室では、このようなストレス応答の一つとして「小胞体ストレス応答」に着目しています。小胞体ストレスとは、「小胞体内に折り畳み不完全なタンパク質が蓄積した状態」のことを言い、このような危機的状況に対抗するべく、様々な応答機構を作動させることもわかってきており、その危機的状況から脱却できない場合、最終的には生体にとって不都合な状態に陥ります。近年、この小胞体ストレスが、神経変性疾患や糖尿病の発症に関わっていることが示唆されてきています。実際に私達は、肥満に関わる「レプチン抵抗性(レプチンという抗肥満ホルモンが効かない状態)」は小胞体ストレスが原因である可能性を世界に先駆けて明らかにすることに成功しました。「小胞体ストレス」のメカニズムを解明できればこれらの病気の原因が明らかにできると考えています。また、私達は、細胞の営みを正常化する機構としてオートファジーにも焦点を当てており、これらに着目することで細胞レベルでの機能を正常化することによる未病状態の正常化や、病気の治癒ができると考え、日夜一所懸命、研究に励んでいます。


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