広島大学 生物生産学部 冨永 るみ
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本研究成果のポイント
- 茶葉成長過程で発現する6つのMYB遺伝子を発見した
- 6つの遺伝子は茶葉の成長段階で発現が変化している
- 6つの遺伝子の何れかが茶葉の品質に関わる毛茸形成を制御している可能性がある
概要
お茶は世界中で最も消費されている飲料です。若い茶葉の表面には毛茸(もうじ)と呼ばれる細かいうぶ毛が形成されており、毛茸は茶葉を食害から守る重要な役割を果たしています。しかし、毛茸が多いと飲用の際の濁りや、粉末として利用する際の食感悪化などの原因につながり、茶葉製品の商品価値は低くなります。この問題を解決すべく、若松寿衣さん(生物生産学部卒業/大学院統合生命科学研究科博士課程前期1年)を中心に、茶葉の毛茸形成の研究に取り組みました。
私たちはこれまで、モデル植物のシロイヌナズナを用いて、トライコーム(毛茸に相当する器官)形成を抑える遺伝子を研究してきました。そして今回、シロイヌナズナのトライコーム形成を抑える遺伝子と似た遺伝子を、お茶で発見しました。発見したお茶の6つの遺伝子は、シロイヌナズナの遺伝子とよく似た構造を持つタンパク質を作ることがわかりました。
今後、これらお茶の6つの遺伝子の詳しい機能を解明することによって、毛茸が少ない商品価値の高い茶葉の育種に応用されることが期待されます。
研究成果の内容
モデル植物であるシロイヌナズナでは、CPCファミリーと呼ばれる遺伝子によって葉の表面にできるトライコームがなくなります。CPCファミリー遺伝子は、MYBという共通配列を持つ転写因子を作ります。MYB転写因子は転写を抑制することで、トライコームを形成しないように働いています。
私たちは、シロイヌナズナのCPCファミリーと似た配列を持つ遺伝子がお茶(Camellia sinensis var. sinensis)に6つあることを発見し、CsCPC-1, CsCPC-2, CsTRY, CsETC1-1, CsETC1-2, CsETC3と名付けました。これらの遺伝子が作るタンパク質の立体構造をシミュレートしたところ、シロイヌナズナのCPCとよく似た構造であることがわかりました。さらにシロイヌナズナのCPCと同様に、タンパク質の表面が負に荷電していることから、DNAとの結合を妨げて転写を抑制することが予想され、CPCに類似した機能を持つ可能性が高いことが分かりました。
次に茶葉の成長段階における遺伝子の発現量を調べた結果、これら6つの遺伝子は、葉の成長段階によってそれぞれ発現量が変化していました。葉の成長段階の異なる第1葉、第3葉、第5葉、第7葉に分けて発現量を測定したところ、CsCPC-1, CsTRY, CsETC1-2, CsETC3の4つの遺伝子は最も若い第1葉で高発現し、CsCPC-2とCsETC1-1の2つの遺伝子は、最も成長した第7葉で高発現していました。一方、茶葉の毛茸の数は、第1葉で最も多く、その後、葉の成長につれて急激に減少していました。まだ因果関係はわかりませんが、第1葉で高発現する4つの遺伝子のうちの何れかが、シロイヌナズナのCPCと同様の機能を持ち、トライコームを形成しないように働いている可能性があります。そのため、第3葉から後の成長段階では、毛茸が無くなったと考えられます。
本研究で発見したお茶の遺伝子は、茶葉の商品価値に影響を与える要因となる毛茸の形成に関わる可能性が高いものです。今後はこれらのお茶の遺伝子の詳しい機能を解明し、毛茸が少ない商品価値の高い茶葉の育種に役立てたいと考えています。
論文情報
- 掲載誌: JOURNAL OF PLANT PHYSIOLOGY
- 論文タイトル: Identification of six CPC-like genes and their differential expression in leaves of tea plant, Camellia sinensis
- 著者名: Juri Wakamatsu, Takuji Wada, Wakana Tanaka, Sotaro Fujii, Yukichi Fujikawa, Yoshihiro Sambongi, Rumi Tominaga
- DOI: 10.1016/j.jplph.2021.153465
掲載日:2021年9月24日