• ホームHome
  • 生物生産学部
  • バイオガス発電の普及と恵み豊かな海の回復は両立できるのか?

バイオガス発電の普及と恵み豊かな海の回復は両立できるのか?

本研究成果のポイント

  • 食品廃棄物や家畜排せつ物を投入したバイオガス発電施設から副産する消化液を、新たに貧栄養海域の肥沃化に利活用する資源循環方法を提案
  • 消化液タブレットによって微細藻類やワカメの生長促進を野外水槽実験で実証
  • 消化液タブレットから溶出した無機窒素の51%を微細藻類が生長に利用

概要

近年、瀬戸内海の水質は改善されてきた一方で、沿岸域では栄養塩が不足し、海苔の色落ちや、漁獲量がピーク時に比べると1/3になるなど貧栄養化が問題となっています。また、陸域では食品廃棄物や家畜排せつ物をメタン発酵によってバイオガスに変換し、発電を行う取り組みが各地で行われています(図1)。しかし、メタン発酵で副生する消化液の一部は液肥として農地に施用されていますが、残りの多くは排水処理を経て廃棄せざるを得なく、消化液の処理に伴う高いコストがバイオガス発電普及の障壁になっています。

本研究では、水槽実験にて、タブレット化した消化液を貧栄養海域の肥沃化に活用できるかどうかを検証しました。現場を模した、海水かけ流しの野外水槽に消化液タブレットを施用したところ、消化液タブレットから栄養塩が溶出し、海洋生態系を支える微細藻類やワカメの生長が促進されました。したがって、消化液に含まれる栄養塩を貧栄養海域の肥沃化に利用できる可能性が示唆されました。

今後は、大型水槽や現場実証試験を行い、効率的な栄養塩の供給方法を確立することで、貧栄養海域の肥沃化、漁獲量の回復を実現し、陸と海を繋ぐ新たな循環型社会の形成を促し、SDGsに貢献したいと考えています。

研究成果の内容

食品残渣など食品廃棄物をメタン発酵させて生じた消化液にバインダーとして高炉セメントを混合し、消化液タブレットを作製しました。現場を模した、海水かけ流しの野外水槽に消化液タブレットを施用したところ、消化液タブレットから栄養塩が溶出し、水槽内のクロロフィルa量が1.4倍になりました。また、物質収支から消化液タブレットから溶出した溶存無機窒素の51%が微細藻類の生長に利用されたことが明らかになりました。これらの結果から消化液タブレットは、海洋生態系の食物連鎖の基盤である微細藻類の増殖を促進させることが示唆されました。

水槽によるワカメの培養実験では、対照区に比べて消化液タブレット施用区では、ワカメの葉の長さが1.4倍に、窒素含有量が1.2倍に、クロロフィルa含量が2.5倍になりました(図2, 3)。物質収支より、消化液タブレットから溶出した溶存無機窒素の44%がワカメの生長に利用されたことが明らかになりました。したがって、消化液タブレットはワカメの生長の促進と色落ちを防ぐ効果があることが示されました。

一連の実験より、現場を模した水槽実験において、消化液に含まれる栄養塩が、新たに貧栄養海域の肥沃化に利活用できる可能性が示唆されました。今後は、大型水槽や現場実証試験を行い、効率的な栄養塩の供給方法の確立を目指します。

論文情報

  • 掲載誌: Journal of Environmental Management
  • 論文タイトル: Terrestrial anaerobic digestate composite for fertilization of oligotrophic coastal seas
  • 著者名: Asaoka, S., Yoshida, G., Ihara, I., Umehara, A., Yoneyama, H.
  • DOI: https://doi.org/10.1016/j.jenvman.2021.112944

謝辞

本研究は、ひょうごエコタウン推進会議および神戸大学大学院農学研究科 井原一高准教授、吉田弦助教、広島大学環境安全センター 梅原亮助教、広島県立総合技術研究所(現職)米山弘行様との共同研究によって行われました。また、ワカメの種糸は広漁業青年部よりご提供いただきました。心よりお礼申し上げます。

【お問い合わせ】

広島大学 生物生産学部 浅岡 聡
Tel:082-424-7945 FAX:082-424-2459
E-mail:stasaoka*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)

掲載日:2021年9月28日


up