栄養素ビタミンB6の筋衛星細胞を制御する新たな機能性を発見

本研究成果のポイント

  • 骨格筋再生において中心的な役割を担う筋衛星細胞に対するビタミンB6の新たな役割を発見した
  • ビタミンB6欠乏下では、骨格筋内の筋衛星細胞の数が減少する
  • ビタミンB6は筋衛星細胞の増殖能および自己複製能の維持に必要である

研究成果の内容

【背景】
筋衛星細胞は、筋再生において重要な役割を担っていると考えられている骨格筋を形成する幹細胞です。通常、筋衛星細胞は静止型とよばれる状態で筋線維の表面上に存在していますが、筋肉の損傷等に応じて活性化し、増殖、分化、融合を通して筋組織を修復する機能を発揮することが知られています。しかし、筋衛星細胞の数および機能は加齢とともに減少し、しだいに筋量・筋力の維持が困難な状態へと陥ってしまいます。この加齢性の筋量・筋力低下は「サルコペニア」とよばれ、高齢者における転倒、寝たきりのリスクを上昇させるため、筋再生能力を維持・向上させることが健康的な生活において重要だと考えられています。近年の研究では、欧州諸国と日本のサルコペニア患者において、ビタミンB6の摂取量および血中濃度が低いことが報告され、ビタミンB6の摂取不足とサルコペニアには関係性があることが示唆されました。そこで本研究では、ビタミンB6とサルコペニアの関係性を明らかにするため、ビタミンB6がもつ筋再生能力への効果を、筋衛星細胞への影響を評価することで検証しました。 

【研究成果の内容】
ビタミンB6の摂取量による筋衛星細胞の変化を検証するため、ビタミンB6低濃度食または高濃度食を摂取させたマウスの骨格筋から単離した単一筋線維を培養し、単離後0、24、48、72時間後の筋線維上に存在する筋衛星細胞の状態を免疫蛍光染色によって観察しました(Fig.1A-C)。正常な状態では、衛星細胞は静止状態にあり、Pax7を発現しています(Fig. 1A)。傷害や疾患により活性化されると、静止衛星細胞は細胞周期に入り、Pax7とMyoDを発現した状態で増殖を繰り返し、細胞集団を形成していきます(Fig.1B, C)。その後、活性化した筋衛星細胞は、筋組織を修復するために筋細胞へと分化するものと、細胞数の維持のために静止型状態に戻る(自己複製する)ものに分かれると考えられています(Fig.1D)。本研究では、ビタミンB6低濃度食のマウスから単離した筋線維において、静止型筋衛星細胞数、活性化後の増殖数、および自己複製細胞数が有意に低下していることが明らかになりました。さらに、ビタミンB6不含培地で筋線維を培養することで、これらの細胞数がより減少することも明らかにしました。これらの結果から、ビタミンB6の欠乏下では、筋衛星細胞数が減少し、さらにその増殖能および自己複製能が阻害されることが示され、ビタミンB6の欠乏が筋再生能力を低下させる可能性が示唆されました(Fig1.D)。

【今後の研究】
今後は、ビタミンB6が筋衛星細胞および筋再生能力に与える影響の詳細なメカニズムを追求していく予定です。これらの研究から、サルコペニアに対する新たな栄養療法の発展につながることが期待できます。

論文情報

  • 掲載誌: Nutrients
  • 論文タイトル: Satellite Cells Exhibit Decreased Numbers and Impaired Functions on Single Myofibers Isolated from Vitamin B6-Deficient Mice
  • 著者名: Takumi Komaru, Noriyuki Yanaka, and Thanutchaporn Kumrungsee
  • DOI:  https://doi.org/10.3390/nu13124531
【お問い合わせ】

広島大学 生物生産学部 Thanutchaporn Kumrungsee
Tel:082-424-7980 FAX:082-424-2459
E-mail:kumrung*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)

掲載日:2022年1月28日


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