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【論文公開】水圏統合科学プログラムの冨山毅准教授の論文が公開されました

宇和海のマアジ稚魚は東シナ海に由来する

本研究成果のポイント

  • 宇和海のマアジ稚魚の9割以上が、同海域におけるマアジの産卵期より、早い時期に生まれていると推定されました。
  • 宇和海のマアジ稚魚の孵化時期及び仔魚期の成長速度は、東シナ海のそれと一致していました。
  • これらのことから、東シナ海を中心とした他海域からの輸送によるソース・シンク・ネットワークが太平洋沿岸のマアジ個体群の形成に重要であることが示されました。

背景と内容

太平洋沿岸のマアジは,東シナ海で生まれた集団と太平洋沿岸で生まれた集団が混在していると考えられています。こうした由来に関する情報は、水産資源の状態を評価し、持続的に利用する上で重要です。

マアジの初期成長は、水温の影響を強く受けます。太平洋側でマアジが最も漁獲される宇和海(図1)の水温は、東シナ海に比べて3~10℃低く、こうした生息水温の違いは,初期成長パターンの違いをもたらすと考えられています。本研究では、両海域での水温と産卵期の違いに着目し、耳石(頭部にある硬組織)に刻まれる日周輪(図2)を解析してふ化時期と初期成長を明らかにすることで、5~6月に宇和海へ来遊するマアジ稚魚の由来を調べました。

その結果、宇和海のマアジ稚魚の90%以上が、同海域での本種の産卵期(4月下旬~6月)でなく、東シナ海の産卵期にあたる2~4月に生まれたことが分かりました(図3)。また、仔魚期の成長速度は、東シナ海の値(0.29~0.34mm/日)と同程度でした。これらの結果は、東シナ海からの輸送によるソース・シンク・ネットワークが、太平洋沿岸でのマアジ個体群の形成に重要である、とする従来の仮設を初めて科学的に立証したものです。

本研究で得られた情報は、資源の動態の理解や、資源状態の評価・予測など、幅広い分野で役に立つものと期待されます。一方で、具体的なマアジ資源の管理方策を提示するには、沿岸域に輸送された稚魚が、その後、沿岸域に留まるのか、別に海域に移動するのかを知る必要があります。今後は、来遊した後のマアジ稚魚の移動の有無を調べてゆく予定です。

図1 研究の対象海域

図2 マアジ稚魚(右)とその耳石剥片(左)。
マアジ耳石剥片には1日1本ずつ日輪が形成され、
各日輪の間隔を測定することで、
成長速度(1日あたりの成長量)を推定することができます。

図3 2011~2015年5~6月に漁獲されたマアジ稚魚のふ化日の分布

予算元

水産庁委託事業 我が国周辺水産資源調査・評価等推進委託事業

論文情報

  • 掲載誌: Journal of Fish Biology
  • 論文タイトル: Hatch date and early growth of juvenile Japanese jack mackerel Trachurus japonicus caught in the Uwa Sea
  • 著者名:橋田大輔a*, 冨山毅b
    a) 愛媛県農林水産研究所水産研究センター栽培資源研究所, b)  広島大学大学院 統合生命科学研究科, *責任著者
  • DOI:  https://doi.org/10.1111/jfb.15462
【お問い合わせ】

広島大学 生物生産学部 冨山 毅
E-mail:tomiyama*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)


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