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【論文公開】分子農学生命科学プログラムの藤井創太郎助教、三本木至宏教授、およびIDEC国際連携機構の藤吉奏助教の論文が公開されました

深海菌由来シトクロムc'の分子表面に形成される塩橋のタンパク質安定化効果

本研究成果のポイント

  • 深海菌由来の2種シトクロムc'の安定性の差の要因が、分子表面に形成される塩橋の有無にあることを示しました。
  • X線結晶構造解析により、この塩橋を消失させた変異体の分子表面に複数の水分子がクラスレート(かご状)構造を形成することを見出しました。
  • 塩橋の消失にともなって形成される水分子のクラスレート構造がタンパク質の不安定化に至ることを示した本論文の成果は、タンパク質安定性を制御する技術発展の一助となります。

背景と内容

深海環境は、低温かつ高圧の極限環境であることが知られています。その環境に適応した微生物由来のタンパク質を研究することは、タンパク質の安定性を向上させるなど新しい技術の発展に貢献します。

琉球海溝の深度約5,000–7,000mに生息する微生物Shewanella benthicaおよび Shewanella violaceaは、相同タンパク質、シトクロムc'(それぞれ、SBCPおよびSVCP)を有します。SBCPおよびSVCPの熱変性中点温度(Tm)はそれぞれ55 ℃、47 ℃であり8 ℃異なりますが、その安定性の差は、129アミノ酸のうち、9つの異なるアミノ酸置換に起因するはずです。そこで本論文では、SBCPへより安定性の低いSVCPで対応するアミノ酸残基を導入した変異実験により、両者の安定性の差の要因を調べました。

SBCPの9つの変異体すべてのギブス自由エネルギー変化を解析したところ、87番目のリジンをバリンに置換したK87V変異体の熱安定性が最も低下することを見出しました(図1)。この変異によって、野生型でリジンが91番目のアスパラギン酸と形成していた塩橋が消失します。次に、K87V変異体のX線結晶構造解析を行ったところ、変異導入したバリンの周囲の水分子がかご状のクラスレート構造を形成することを見出しました(図1)。したがって、塩橋の消失に加えてK87V変異体が野生型に比べて周囲の水分子をより制限するためエントロピーの不利益が大きくなることも、安定性が低下する要因であると考察しました。

本論文の知見は、分子表面の塩橋の有無によりタンパク質安定性を制御し得ることを示すものです。このような知見の蓄積により、タンパク質安定性の原理解明や応用技術発展につながると考えています。
 

図1 
SBCPシトクロムc'への変異導入による安定性変化と
K87V変異体のX線結晶構造(赤点は水の酸素原子を示す)

論文情報

  • 掲載誌: Journal of Structural Biology
  • 論文タイトル: Contribution of a surface salt bridge to the protein stability of deep-sea Shewanella benthica cytochrome c'
  • 著者名: 藤井創太郎a,b*, 坂口陸a, 沖大也c,d, 河原一樹c, 大久保忠恭c, 藤吉奏e,f, 三本木至宏a,f* 
    a) 広島大学大学院統合生命科学研究科, b) Diamond Light Source Ltd., Harwell Science and Innovation Campus, c) 大阪大学大学院薬学研究科d) 大阪大学 微生物病研究所e) 広島大学IDEC国際連携機構, f) 広島大学瀬戸内CN国際共同研究センター *責任著者
  • DOI:  10.1016/j.jsb.2023.108031. 
【お問い合わせ】

広島大学 生物生産学部 藤井創太郎 
E-mail:sofuji*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)

広島大学 生物生産学部 三本木至宏 
E-mail:sambongi*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)


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