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【開催報告】【2023.6.3】定例オンラインセミナー講演会No.139「教育研究を英語書籍として出版する-出版社(Routledge)、著者、査読者の経験から-」を開催しました。

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2023年6月3日(土)に,第139回定例オンラインセミナー「教育研究を英語書籍として出版する―出版社(Routledge)、著者、査読者の経験から―」を開催しました。総勢30名の皆様にご参加いただきました。
はじめに、司会の丸山恭司教授(広島大学)より、本セミナーの趣旨が説明されました。教育研究を英語で出版することが求められている一方、そのノーハウが社会に広まっていない状況を問題として指摘し、出版社、著者、査読者の経験からそのノーハウを共有するという趣旨がセミナーの参加者全体で確認されました。

司会の丸山教授

話題提供を行うPeace氏

次に、Katie Peace氏(Routledge アジア・太平洋地区担当)より、出版社の立場から話題提供が行われました。まず、ご自身が勤務されているTaylor & Francisという会社、そのなかでも社会科学や人文学(教育研究を含む)を出版するRoutledgeというブランドについての説明がありました。主にアジア・太平洋地域の教育研究の出版を支援しているPeace氏は、参加者に本を出版することの意味、特に英語で本を出すことの意味について語りました。特に、英語で本を出版することによって、各自の研究を世界的に位置づけられること、また、その出版をきっかけに新たな仕事の可能性が広がることが強調されました。続いて、本を出版するまでのプロセスと出版社がそのプロセスをどのように支援するかに関する説明がありました。「プロポーザルの提出→出版社や外部審査委員による査読→(採択の場合)契約締結→原稿提出→出版社との調整→出版」というプロセスのなかで、出版社は著者や編者の立場に立つ助力者であることが説明されました。具体的にはアイデアをプロポーザルとして形つくっていくための相談、本のプロポーザルを作成する際の相談、原稿の質保証のためのまめなチェックやプルフローリングのような言語的なサポートなど、様々な支援を行っていることを語りました。
次に、金鍾成准教授(広島大学)より、著者の立場から話題提供が行われました。自分を日本の教室における韓国からの「異邦人(Stranger)」であると紹介した金氏は、日本と海外の教育研究をつなぎ、両方に新しさをもたらすために英語で本を出版してきたと話しました。氏は、2019年に米国の研究者と一緒に編集した『Design Research in Social Studies Education: Critical Lessons from an Emerging Field』から英語で本を出版するノーハウを学んだと語りました。2021年には、日本の研究者と編集チームを作り、日本の授業研究を世界に発信するとともに、日本の授業研究を相対的に捉える試みとして『Lesson Study-based Teacher Education: The Potential of the Japanese Approach in Global Settings』を出版した説明されました。1つ目のプロジェクトとは異なり、編著者の多くが英語話者でない、また英語で出版した経験がないことで、編集者としての業務にお加え、書き方の支援、言語的な支援も行ったと語りました。今後英語で本を出版したい人々に向けて、金氏は、➀最初は英語で本を出版した経験のある研究者とチームを組んで出版に挑むこと、➁出版社と頻繁に連絡を取り合うこと、特に英語話者ではない人々に向けて➂単に英訳することでは不十分で、学問的な伝統と違いや原稿の書き方の違いにも注意する必要があること、最後に➃自分が書きたい内容に加え、世界の読者や出版社のニーズを考慮しながら出版に挑むことを提案しました。
次に、川合紀宗教授(広島大学)より、査読者の立場から話題提供が行われました。川合氏は、自身の英文ジャーナルの査読経験をもとに、英語で教育研究を出版する際のノーハウを共有しました。まず、査読者として、論文の目的と研究の重要性はもちろんのこと、その目的を達成するための方法論およびデータ、そのデータから作り出される論理構造をも評価すると語りました。特に、英語話者ではない研究者に向けては、文法や文章の明瞭性、引用方式の適切さが乏しい原稿を査読にすら回してもらえないため、注意する必要があると説明しました。また、大多数の英語ジャーナルは倫理審査を求めるため、英文で出版しようとする研究者は最初からきちんと倫理審査を受ける必要があるとも語りました。査読のプロセスの説明の後、以下のように英文雑誌へ論文を投稿しようとしている方へのメッセージ6つを送りました。
1. 論文の質の確保:論文を執筆する際には、研究の質と科学的な信頼性の確保に重点を置くことが重要である。方法の適切性、データの正確性、結果の妥当性などに留意しながら論文を執筆する必要がある。
2. 先行研究との関連性の明示:論文は、既存の研究との関連性や当該分野に対する貢献度を明確に示し、新たな洞察や知見をもたらす研究であることを明示する必要がある。
3. 文章の明確さと正確性の確保:論文は適切な語彙や文法を用い、明確かつ正確に書く必要がある。内容の論理的なつながりの確保などに留意し、編集者や査読者が研究内容を正しく理解できるようにする必要がある。
4. 批判的な視点と建設的なフィードバックの受容:査読者は論文を評価し、批判的な視点からコメントやフィードバックを提供する。査読者も論文の質を高めようと努力していることを理解し、著者は、査読者のコメントを受け入れ、建設的な意見に対して適切に対応することが望ましい。
5. 審査ステップが完了するまでにかかる時間の確認:査読や審査には時間がかかる場合があるため、投稿を考えている雑誌では、審査結果が判明するまでにどれくらい時間がかかるのかを調べておく必要がある。これは、論文の採択状況が修了時期に影響する博士課程の学生には特に重要なことである。審査結果については辛抱強く待つ必要があるが、その雑誌が示している標準審査期間を過ぎても結果が届かなければ、編集委員会に連絡してもよい。
6. 編集者や査読者は、ほとんどの場合、無償で編集や査読作業を行っているため、審査ステップについて問い合わせたり、論文の修正が求められたりした場合には、感謝の気持ちを忘れずに、丁寧にコメントすることが重要である。

話題提供を行う金准教授

話題提供を行う川合教授

また、質疑応答では、「日本のジャーナルと比べて英文ジャーナルの場合査読の回数が多い気がするが本当か」、「現在アイデア構想の段階であるが、いつからプロポーザルを書けば良いか」、「読者の設定が重要であると考えるが、複数の読者集団(学生、そして研究者)を設定することは可能か」といった質問が出されました。それに対して、日本のジャーナルは特定の巻や号に向けて原稿を査読するため2回以上は査読しない傾向にあるが英文ジャーナルは掲載可の判断を受けたものから順次出版する体制であるので数回の査読が可能になるため日本のジャーナルよりは査読の回数が多くなりえること、アイデアだけではプロポーザルを作成することは難しいがアイデアをプロポーザルとして形づくるプロセスで出版社が相談に乗ることはできること、複数の読者集団を設定することは可能であるが優先順位を決めておくことは重要であることが回答されました。
最後に、英語話者でない研究者が教育研究を英語書籍で出版することは容易な仕事ではないが、英語で本を出版することがその本からつながる新たな研究の機会や留学生を含む人々との出会いにつながることが共有され、本セミナーは終了しました。
今後もEVRIでは、教育研究を英文書籍、または英文ジャーナルとして出版することを支援してまいります。
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【問い合わせ先】

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室

E-Mail:evri-info(AT)hiroshima-u.ac.jp
​※(AT)は@に置き換えてください


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