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【開催報告】【2023.5.26】定例オンラインセミナー講演会No.141「金曜に夜更かし-セルフスタディを語り合う-(2)教科教育学研究者にとってのセルフスタディ」を開催しました。

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2023年5月26日(金)に、第141回定例オンラインセミナー「金曜に夜更かし-セルフスタディを語り合う-(2)教科教育学研究者にとってのセルフスタディ」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に15名の皆様にご参加いただきました。
「金曜に夜更かし-セルフスタディを語り合う-」は、日本の教師教育において徐々に広まりつつある研究方法論であるセルフスタディに注目し、日本の教師教育者はどのような経験や研究背景からセルフスタディに興味・関心を持ち、どのようにそれを実践・研究しているのかを考えるセミナーシリーズです。セミナーを通して、セルフスタディに関心を寄せる研究者や教師教育者の交流の場になることを期待しています。
シリーズでは毎回、セルフスタディの実践や研究を行われている方をゲストにお招きし、実践・研究上の悩みや葛藤、あるいは喜びなどを率直に語り合います。セミナーは司会者がゲストへセルフスタディに関する質問を行う「公開インタビュー」の形式で進行し、視聴者の皆様からのQ&Aにも答えます。
なお、本セミナーシリーズは、EVRIのメンバーである草原和博教授やスタッフである大坂遊教育研究推進員が参加する、科学研究費助成事業(研究課題/領域番号:21K02472)「先生の先生はいかに自己成長をするか:教師教育者の専門性開発の体系化に向けて(齋藤眞宏代表)」の活動の一環としても実施されます。
シリーズ第2回となる本セミナーでは、京都ノートルダム女子大学の大西慎也氏(社会科教育学がご専門)をゲストにお招きして、公開インタビューが行われました。
はじめに、司会の大坂遊氏(周南公立大学・EVRI教育研究推進員)より、上述したような本セミナーの趣旨が説明されました。また、このセミナーシリーズを通して、さまざまな経歴や関心を持つ方のお話を伺うことで、「日本の教師教育者は,どのような背景や文脈のもとでセルフスタディの実践や研究に取り組んでいるのか」「日本の教師教育者は,何を変えることを期待してセルフスタディの実践や研究に取り組んでいるのか」という研究上の問いにこたえたいという意図が共有されました。

セミナーの趣旨説明をする大坂氏

続いて、登壇者の大西氏への公開インタビュー「私とセルフスタディ」が行われました。インタビューでは、①セルフスタディに出会う以前の実践や研究について、②現在取り組んでいるセルフスタディの実践や研究について、③セルフスタディの実践や研究に取り組む目的や意図について、④セルフスタディの広まりが近い将来の日本の教師教育や学校教育に与えるポジティブな影響について、の4点を中心に聞き取りが行われました。また、途中からセルフスタディの共同実施者である兵庫教育大学の山内敏男氏(社会科教育学がご専門)もゲストとして参加し、同じセルフスタディに対して異なる立場から得た経験を共有し合う場面も見られました。
(以下、お二人のインタビュー内容の骨子。編集を加えた要約版であり,お二人の当日の実際の発言内容とは若干異なるところがあります。)
◆大西慎也氏(京都ノートルダム女子大学)の語り
もともと兵庫県で17年間小学校の教員をしていた。社会科が好きだった。同僚の先生や管理職に自分の意見を聞いてもらいながら、いろいろとアドバイスをいただいた。より良い授業をする中で子どもたちに成長してもらいたいと思うようになった。在職中に兵庫教育大学の大学院に通い、社会科授業のあり方を追究した。
その後、大学教員となって、研修会などで先生方と関わるたびに、小学校の先生が良い社会科の授業をどうしたら実践できるだろうか、(国語や算数などの教科ばかりでなく)社会科の授業の改善にもっとコミットしてもらうにはどうすればよいかと考えさせられた。社会科授業改善の方法を先生方に伝えようとしても届いていないと感じた。そもそも改善方法を「伝達」するのではなく、先生たちが自ら考えてもらうためにはどうすればいいのか。社会科の授業が苦手の先生が、どのように自身の「観」を磨いていけばよいのか。そのような試行錯誤の取り組みを進めていた。
その中で、科研のプロジェクトの一環で、20名ぐらいの先生たちに、苦手だった社会科の授業をどう克服していったのかをインタビューする機会があった。すると、その先生たちは共通して、先輩や同僚など、自身の実践を改善するきっかけを与えてくれる他者と出会っていたことがわかった。ある意味、彼らの存在はクリティカルフレンドだと言える。まだセルフスタディに出会う前だったが、自分の中で無意識にクリティカルフレンドの重要性を認識していったのだと思う。
その後、山内氏とセルフスタディを行うようになり、山内氏との共著でセルフスタディの論文を社会科教育の雑誌に投稿した。山内氏とは同世代であり、同じ時期に大学院にも通うなど長い付き合いがあり、お互いのことをよく知っている信頼できる関係ということでクリティカルフレンドを引き受けた。山内氏の現職派遣の院生への指導に対する葛藤に注目し、山内氏自身が持っているこだわりをどのように乗り越えていけるのかというセルフスタディだった。クリティカルフレンドとして、山内氏の院生ゼミに参加したり、山内氏に繰り返しインタビューを行ったりする中で、山内氏が自身の実践からリフレクティブに学び、社会科教師の教師教育者として変容していく過程を見ることができた。(実践者である山内氏が)自身の振る舞い一つで変わっていく。ただ寄り添うだけでも変化する。関わり方や変化は人によっても変わってくるし、場によっても変わってくる。クリティカルフレンドの重要性を改めて認識するとともに、クリティカルフレンドの関わり方についてさらに明らかにしていきたいと考えるようになった。
【Q.クリティカルフレンドとしてどのような関わり方を意識したのか?】
まず前提として、山内氏に助言したり指導したりする関係性ではなかったのが良かった。だから(フラットな関係で)クリティカルフレンドとして関わることができた。あえて突き放したような感覚で、(変わるかどうかは)「結局は山内氏次第だ」と思って向き合ったのが良かったのかもしれない。山内氏自身に実践の意図や思いを語ってもらおう、ということを大事にした。どう掘り起こしていくのか、どう内面に迫っていくのか、がクリティカルフレンドの関わり方として大切なのではないか。
【Q.セルフスタディを通してどんなことを成し遂げたいか?】
どこまで現場にセルフスタディを広げられるのかが大事。急に日本中に広がるのではなく、徐々に徐々に広がっていく。先生が研究しながら、お互いに支え合っていけるような関係性が広まっていくことが大事。それは大学でも、小学校や中学校、高校でも同じ。現場の改善、授業改善にコミットするようなことを期待している。
【Q.具体的にどのような形で学校でセルフスタディの実践が展開されるイメージなのか?】
いろいろな形がありうると思う。山内氏は年も近いし、一緒に勉強した経験もあるので、そういう(同門的な)関係性で行うセルフスタディが合う人もいるだろう。あるいは、新人教員と校長でセルフスタディを行うような場合もありうるだろうし、その時はまた別の関係性となるだろう。関わり方の「型」や関係性も様々にあると思う。
(セルフスタディを広めていくために)校内研修などで関わる場合は、私自身がセルフスタディのやり方を示してみせている。私が授業者に対して、クリティカルフレンドのような立場で、どういう意図や願いで実践を行ったのかということを掘り起こしていく。研修参加者にも同じく授業者に気づきを促すような質問をよびかけ、クリティカルフレンドとしての関わり方の世界にいざなっていく。「私の目からはこのように見えましたよ」という話をお互いができるようになったら、私が学校に行く必要もなくなる。学種や学校の性質によってもアプローチは違ってくるが、関わりによって関係性を変えていくことをしたい。
【Q.セルフスタディが広がることによって、学校現場にどんな変化が期待できるか?】
いろいろあると思う。社会科をはじめとする教科の授業改善に主体的にコミットしていく先生たちが増えていくことがあると良いし、そういう小さな炎が広がっていくことがあると良いと思う。そのために、大学教員はもっと(自己の教師教育の省察や改善を)頑張らなくてはいけないと思う。私も一時期同僚とセルフスタディ的なことを実施していたのだが、お互いの授業を見合い、意見を言い合って改善していると、それを見ている学生も学び、変わっていく様子がよくわかった。大学教員が、自身が学び改善する姿を学生に示していく必要がある。大学で行っている取り組みが、結果的に10年後20年後の教師に広がっていくのかもしれない。
◆山内敏男氏(兵庫教育大学)の語り
大西氏には、セルフスタディを通して「なぜそう考えたのか」をたくさん引き出してもらった。聞いていただいている、ということが大きな意味を持っていた。
自分自身、たくさんの葛藤を抱えている人間なのだが、特に(大学院生に対する)指導のあり方、実践の改善の方向性について葛藤してきた。今は「これからの●●は▲▲だ!」のように(自分が恩師である教師教育者から指導されたように)断言できなくなっている時代だからこそ葛藤する。そこに、セルフスタディを通して大西氏がクリティカルフレンドとして関わってくれた。
インタビューをされたりゼミ指導の様子を見てもらったりといった、セルフスタディの過程自体に価値があったと思う。セルフスタディを始める前と後で、葛藤の内実も変わっていったことが自覚できた。問題がくるくると展開(変化)していく中で、一筋縄でいかないが、変わっていく自分を自覚できるのがセルフスタディ。仮説・検証型と言われるような、結果ばかり求めがちな現場の研究に慣れ親しんだ私にとっては非常に新鮮だった。セルフスタディを経て、教師教育の姿勢が変化した。授業や研修で(学生や受講者に)「それってどういう意味ですか」「もう少し聞かせてください」と聞くようになった。とてもいい経験をさせていただいた。

教師教育おけるクリティカルフレンドの重要性を語る大西氏

教師教育者としての「葛藤」を語る山内氏

以上の発表を受けて、20分ほどフリーディスカッションや質疑応答が行われました。
企画者(草原・齋藤)と登壇者お二人との間では、「セルフスタディを行う当事者同士にはどのような相互作用(相互変化)が起きたのか」「教師教育者は(意識せざるを得ない)自分の指導教員を“乗り越える”“自立する”瞬間があるのではないか、セルフスタディはそれにどのように貢献するのか」といった点について意見が交わされました。

セルフスタディによる作用、変容について語る草原教授

インタビュー内容の論点を整理する齋藤氏

今後もEVRIでは、「教師教育・授業研究ユニット」ユニットを中心に、授業研究を軸に教師教育を変革するための方略を検討してまいります。
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【問い合わせ先】

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室

E-Mail:evri-info(AT)hiroshima-u.ac.jp
​※(AT)は@に置き換えてください


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