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【開催報告】【2023.6.23】定例オンラインセミナー講演会No.144「金曜に夜更かし-セルフスタディを語り合う-(3)多文化保育・教育の研究者・教師教育者にとってのセルフスタディ」を開催しました

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2023年6月23日(金)に,第144回定例オンラインセミナー「金曜に夜更かし-セルフスタディを語り合う-(3)多文化保育・教育の研究者・教師教育者にとってのセルフスタディ」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に10名の皆様にご参加いただきました。

「金曜に夜更かし-セルフスタディを語り合う-」は,日本の教師教育において徐々に広まりつつある研究方法論であるセルフスタディに注目し,日本の教師教育者はどのような経験や研究背景からセルフスタディに興味・関心を持ち,どのようにそれを実践・研究しているのかを考えるセミナーシリーズです。セミナーを通して,セルフスタディに関心を寄せる研究者や教師教育者の交流の場になることを期待しています。
シリーズでは毎回,セルフスタディの実践や研究を行われている方をゲストにお招きし,実践・研究上の悩みや葛藤,あるいは喜びなどを率直に語り合います。セミナーは司会者がゲストへセルフスタディに関する質問を行う「公開インタビュー」の形式で進行し,視聴者の皆様からのQ&Aにも答えます。

なお,本セミナーシリーズは,EVRIのメンバーである草原和博教授やスタッフである大坂遊(周南公立大学・EVRI教育研究推進員)が参加する,科学研究費助成事業(研究課題/領域番号:21K02472)「先生の先生はいかに自己成長をするか:教師教育者の専門性開発の体系化に向けて(齋藤眞宏代表)」の活動の一環としても実施されます。

シリーズ第3回となる本セミナーでは,東洋大学の内田千春氏(幼児教育がご専門)をゲストにお招きして, 公開インタビューが行われました。

はじめに,司会の大坂氏より,上述したような本セミナーの趣旨が説明された上で,登壇者の内田氏への公開インタビュー「私とセルフスタディ」が行われました。

本セミナーの趣旨を説明する大坂氏

【以下,内田氏へのインタビュー内容の骨子。編集を加えた要約版であり,当日の発言内容や展開とは異なるところがあります。】

(Q.どういう経緯でセルフスタディに出会ったのか?)
私はもともと保育者だった。日本での数年間の勤務の後,オハイオ州立大学の大学院に進学し,研究方法論,幼児教育,特別支援教育に関連する領域を中心に学んだ。
所属学部はヴィゴツキー系の社会文化的/社会歴史的アプローチや批判的教育学系の教員が多く,social justiceやequityを目指す多文化教育のプログラムが,当時の教員養成の必修科目でもあった。そこでは,自分のことを語り合うという演習があった。「あなたはどんな人なの」と問われ,「普通の○○です」と答えると,「“普通”なんて,ないよね」と諭される。このように,自分がマイノリティ側であるということに自覚的になるような指導を受けた。また,アクションリサーチを通して,教育者として自身が教室や生徒をどのように見ているかということに向き合うことが求められた。セルフスタディではないが,同じような方法をとっているものに出会っていたといえる。
その後,日本に戻って大学教員となり,今度は自分がマジョリティの側となった。マジョリティとしてマジョリティの学生に教える時どうしたらよいのかと悩んだ。そこで,ナラティブインクワイアリーの手法を用いて,対話を通して自分のヒストリーを探究する研究に取り組んだ。これを学会で発表したときに,見ていた齋藤氏(旭川市立大学)からセルフスタディをやってみないかと誘われた。直接的にセルフスタディを始めたのはこれがきっかけ。

(Q.どのようなセルフスタディに取り組んだのか?) 大学で担当している「多文化保育・多文化教育」という授業を事例にセルフスタディを行った。
もともと,(自分と学生,学生同士の間にある)文化的差異が分かりにくい日本の環境で教えることが無かったので,この授業の実践に難しさを感じていた。学生同士は実際には違っているのだけれど,お互いに違っていることを出さない,あるいは出しにくさを感じている学生たちが多い。そこで,齋藤氏と月1くらいのペースでオンラインで対話し,授業の難しさや自身のスタンスなどを共有した。最初はただ話をしているだけだったが,徐々にオンラインのホワイトボードアプリ等を使いながら話をするようになった。
日本にいる時から自身がマイノリティ性を持っているということに,アメリカに行って気が付いた。セルフスタディを通してこのことについて問い直しを行ったことで,自分が大学の授業でおこなっていることが意識化できていると感じる。授業の受講学生50人に対して,全員にぴったりするような映像や体験を用意することはできない。「1回の授業で10人くらいにはまればいい」,そういうスタンスでの実践と省察の繰り返しを,セルフスタディで行っていた。

(Q.セルフスタディを通して,自身の実践を振り返ったり,改善したりという示唆は得られたか?)
一番の変化は,教育を長い目を通してとらえるようになったこと。
そもそも,人はそんなに簡単に変わらない。自分も,何年か経って振り返った時に,その経験の意味に気付いたということがある。もともとそういうスタンスだったような気もするが,今は明確に,「15回の授業で分からせなくてよい」と思うようになった。授業では,ある程度まで知識としてわかってくれればいい。たった15回の授業で,学んだことを「実感」として腑に落とすことができると考えるのは,おごりだと思った。自分の仕事は「種まき」であって,その種が育つかどうかは学生に任せるしかない。とにかくいろんな種をまいておく。最近は,私はそのことを「お守りを渡す」と表現していたらしく,クリティカルフレンドの齋藤氏が拾い上げてくれた。こんなふうに,セルフスタディを通して流れてしまう言葉を拾い上げてくれることも面白い。

(Q.別のセルフスタディを実施しようと思うことはあるか?他者にセルフスタディを勧めることはあるか?勧める際の基準などはあるのか?)
同じ大学の先生などに,気軽に誰でもセルフスタディをやりましょうと声をかけられるかというと,それは難しい。具体的に,特定の学生についての関わり方を考える必要があるケースなどは,セルフスタディをしている場合ではない。もう少し俯瞰的にみて,考えるときにはセルフスタディがいい。「じわじわやる」時にセルフスタディは向いている気がする。

(Q.学生の卒論などでセルフスタディを勧めることは?)
それはない。学生は,具体的な場面を想定した関わり方を考えたい人が多い。卒論で多文化保育について研究したい学生については,「自分を掘り下げるためにもまず(異質な他者と)出会おう」という指導をしている。

以上の発表を受けて,20分のフリーディスカッションや質疑応答が行われました。

内田氏のセルフスタディのクリティカルフレンドであり,セミナー企画者でもある齋藤氏とのやり取りでは,「(我々のセルフスタディでは,共通の関心である)教室の中の権力性に注目した省察が多くなされたのではないか」「現在は,自分のセルフスタディはひと休み。かわりに,齋藤氏の授業を事例にしてセルフスタディをしていて,私がクリティカルフレンドになっている。齋藤氏が考えていることについて,聞いていて納得いかないこともあり,ここはというところで突っ込んだりする。」といった,セルフスタディの実践に関わる議論がなされました。

アメリカでの経験をもとにセルフスタディについて語る内田氏

クリティカルフレンドとして考えを述べる齋藤氏

また,内田氏と齋藤氏のセルフスタディを発端として,「どのようにクリティカルフレンドを見つけ出すのか」といった疑問も提示され,「関心や境遇が近い人がいいのではないか」「この人ならわかってくれる,この人に聞いてほしいという人がいいのでは」「学会などでそういう人を探すという手もあるのでは」といった意見が出されました。さらに,誰にでもセルフスタディを勧められるわけではないという趣旨の内田氏の話を受けて,セルフスタディの実施にはある種の「覚悟」が必要であり,時間的・精神的なゆとりも必要なのかもしれない,という意見も出されました。

任意参加のアフターセッションでは,企画者を中心に,「実施する上で時間的・精神的な大変さもあるセルフスタディを,なぜそれでも実施したいと思うのか」といった議論が盛り上がりました。

大変さを伴うセルフスタディについて議論する草原教授

セルフスタディを実施する大変さについて語る渡邉巧准教授(広島大学)

今後もEVRIでは、「教師教育・授業研究ユニット」ユニットを中心に、授業研究を軸に教師教育を変革するための方略を検討してまいります。
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【問い合わせ先】

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室

E-Mail:evri-info(AT)hiroshima-u.ac.jp
​※(AT)は@に置き換えてください


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