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【開催報告】【2023.6.18】定例オンラインセミナー講演会No.146「2023 East Asian Social Studies Symposium (EASSS): History Teacher Education in Korea, Japan, and Taiwan」を開催しました

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2023年6月18日(日)に、第146回定例オンラインセミナー「2023 East Asian Social Studies Symposium (EASSS): History Teacher Education in Korea, Japan, and Taiwan」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に24名の皆様にご参加いただきました。

はじめに、川口広美准教授(広島大学)より、本セミナーの趣旨が説明されました。川口准教授は、歴史教育が東アジアにおける歴史和解を構築していく場として注目を浴びてきているものの、その実践を担う歴史教師、特に歴史教師がどのように養成されているかに関してはあまり議論されてこなかったことを課題として指摘しました。その後、本セミナーでは、日本、韓国、台湾の歴史教師教育者とのインタビューを通して、➀各国の歴史教師教育者はどのように歴史教員志望学生を養成しているか、➁歴史教員志望学生を養成するなかで、各国の歴史教師教育者はどのような課題に直面しているか、という2つの問いに答えることで、上述の課題の克服を目指すことが参加者全体で確認されました。

次に、金鍾成准教授(広島大学)より、韓国に関する事例が報告されました。まず韓国では、歴史教師になるために師範大学の教員養成課程(4年制)を出るか、歴史と関連する科目を専攻しながら教職履修プログラム(教育学・教科教育学系科目および教育実習)を履修する必要があると説明されました。金准教授の発表は韓国の師範大学で歴史教員養成に携わっている2人の歴史教師教育者の語りを重心に進みました。2人の歴史教師教育者は、教員志望学生に「なぜ歴史を教えるか」をじっくり考えさせ、自らがその問いに対する答え(Rationale)を探すことが歴史教員養成課程におけるもっとも重要なゴールであると考えていました。そのため、教員志望学生が持っている暗記中心の歴史教育のイメージを解体し、探究を軸にした歴史教育や構成主義および批判主義にもとづく歴史教育へ転換させるために努力していると述べました。また、大学の学びが机上の空論にならないように、大学と学校現場をつなぐための工夫(学校の実践を積極的に取り入れる、実際に現場で使える教材研究およびカリキュラムデザインを行うなど)と語りました。さらに、上述の目標に到達することを困難にする要因として、教員志望学生の「慣性」(1時間単位のカリキュラムデザインや内容中心のカリキュラムデザインなど)、歴史教育を取り巻く政治、理想(Rationale)と現実(テスト準備や生徒の水準など)の乖離、教師教育のための教材の不足をあげました。最後のまとめとして、金准教授は韓国の歴史教員養成が目標、内容、方法を中心に歴史教育を捉える教科教育学にもとづいていること、その具体的な方法として授業をつくり、分析・省察する授業研究が活用されていること、教員志望学生の既存の歴史教育観、歴史教師教育のシステムとそれを取り巻く文脈が歴史教師教育に支障を与える可能性について言及されました。

韓国の歴史教師教育について語る金准教授

次に、川口准教授から日本に関する事例が報告されました。川口准教授は、日本の社会系教科の構造とその教員養成について言及した後、歴史教員養成に携わっている2人の歴史教師教育者の語りを報告しました。2人の歴史教師教育者は、歴史教師について求められる役割について考え続けることや社会科における多様な方法とその裏にある社会科観を理解することを目標として掲げながら歴史教師を育成していると語りました。具体的な方法としては、なぜ歴史を教えるかを考える機会を設けること、多様な類型の歴史授業を分析・開発することがあげられました。そのなかでも、歴史を教える理由を考えさせ、既存の歴史授業に対するイメージの解体と再構築に重きをおいていると語りました。共通の困難さとしては、教員志望学生が新たな歴史教育に関する経験やイメージが乏しいこと、伝統的な教授方式からの脱却に対する教員志望学生の拒否、歴史教育のための資源(時間や教員数)の不足、歴史修正主義などがあげられました。最後のまとめとして、日本には歴史教師のためのスタンダードが存在しないため良い歴史教師の基準が個々人に任されていることを指摘し、良い歴史教師に求められる資質・能力に関する議論を行う必要性を述べました。

日本の歴史教師教育者の語りを紹介する川口准教授

次に、Yu-Han Hung氏(University of Houston Downtown)から台湾に関する事例が報告されました。Hung氏は、台湾の歴史教育が歴史学部のなかの一領域として位置付けられていること、歴史教員養成が一般的な教員養成プログラムのなかで行われており大学によっては歴史教育を専門としている教師教育者がいない場合もあることが説明しました。2人の歴史教師教育者とのインタビューからは、近年の台湾の歴史教育および歴史教師教育の方向性が、知識習得から歴史的な出来事を文脈化するスキルの開発へ、ナショナルアイデンティティの育成から歴史的思考や個々人のセルフアイデンティティの育成へ、愛国心の育成からグローバル市民としての資質・能力の育成へ、転換していることが報告されました。歴史教師教育における困難さとしては、歴史教師教育そのものが軽んじられておりそのための財源や教員が足りないこと、教員養成プログラムにおいて歴史教師教育の立場が曖昧であること、大学と学校現場とのギャップが大きいことがあげられました。最後のまとめとしては、韓国や日本と同じく歴史教師教育の構造に起因する課題や歴史教師教育には常にイデオロギーや政治的権力が関わっている一方で、台湾では歴史教師教育が持つ価値や立場が韓国や日本とは異なると述べました。

台湾の事例について報告する Hung氏

以上の発表を受けて、Keith C. Barton氏(Indiana University, Bloomington)は本シンポジウムのような歴史教師教育に関する比較研究の価値を高く評価しました。さらに、Barton氏は、東アジアだけではなく、異なる文脈に置かれている他の国々の歴史教師教育との比較と通して、本シンポジウムの成果をより発展させることを期待したいと語りました。また、米国では歴史教師教育に関する緩やかな合意が形成されているが、その理由として専門家集団の存在を言及しました。Barton氏は、他の国々においてこのような専門家集団をどのように形成・運営するかが課題であると述べました。最後に、歴史教師教育における理論と実践のギャップという言葉そのものの再定義が必要であると語りました。Barton氏は、理論と実践のギャップというときに、しばしば大学が理論、学校が実践という前提があり、それらを往還することで上記のギャップを埋めていくことが論じられると述べました。しかし、Barton氏は、大学でも実践は取り扱われているし、学校でも理論があると述べ、それぞれの文脈で扱われている理論と実践とを明らかにしていくことで、理論と実践のギャップがよりよく見えてくるし、一体化に向けた議論も建設的に行うことができると語りました。

報告内容を総括するBarton氏

また、ウェビナーのQ&A機能を活用して行われた質疑応答では,「教科教育学がどのように形成されたか、また、教科教育学が基づいている「目標、内容、方法」だけだと子どもの様子は歴史教育のなかであまり考慮されなくなるのではないか」、「米国の歴史教師教育から見た日本の歴史教師教育の課題は何か」、「米国の歴史教師教育者の専門家集団について詳しくしりたい」といった質問が出されました。これらの質問に対して、日本の教員養成が定着していくなかでドイツの教科教授学(Fachdidatik)や他の教授学的な伝統から影響を受けながら日本独自の教科教育学を創造したこと、教科教育学の目標、内容、方法の概念は常に修正・拡張されており、目標、内容、方法のなかに、特に方法のなかに子どもの様子を含む教室の文脈が含まれていること、日本の教科教育学は目標に重きをおく傾向にあるため歴史教育および歴史教師教育が演繹的になりやすいが、帰納的なアプローチもともに考慮する必要があること、米国には全米社会科協議会やそのなかのCUFAやIAなどの専門家集団が存在することが共有されました。

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【問い合わせ先】

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室

E-Mail:evri-info(AT)hiroshima-u.ac.jp
​※(AT)は@に置き換えてください


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