第1回加藤純一教授

バイオのつぶやき第1回
専攻長 加藤 純一教授

2015年6月18日

 学部では工学部第三類発酵工学講座、大学院では先端物質科学研究科分子生命機能科学専攻を担当しております。では、発酵工学、分子生命機能科学とはいったいどういう学問なのでしょうか?キーワードはずばり、バイオテクノロジーです。ではバイオテクノロジーとは何か?それは、生物が持つ様々な機能を活用する技術のことです。

 発酵工学/分子生命機能科学のルーツは、広島高等工業学校の醸造学科(昭和4年に設置)にあります。醸造学科はまさに日本酒をはじめとするお酒造りの研究・教育を行う学科です。醸造学の研究・教育の特徴を考えてみると、(1)たくさんアルコールを生産する微生物を探し出す、(2)なぜたくさんアルコールを生産するか解明する、(3)もっとたくさんアルコールを生産するように微生物を育て上げる、(4)育て上げた微生物を活用する、の「探求」、「解明」、「育成(育種)」、「活用」がプリンシプルになるでしょう。現在では醸造だけでなく、環境、健康、資源に関わる様々なバイオテクノロジーにこのプリンシプルを適用して研究・教育を展開している、それが現在の発酵工学/分子生命機能科学になります。

 上述のプリンシプルの中で発酵工学に独特なものは「探し出す」であります。様々な環境から土壌試料や水試料などを採取し、そこから優れた機能を持った微生物を自らの手で単離・取得する研究活動で、スクリーニングと呼ばれています。これまでの私たち及び先輩たちのスクリーニング活動で多種多様な有用微生物が単離・取得されています。その一例を列挙してみると、

・パンくずから水素を生産する微生物

・水素、CO2、猛毒の一酸化炭素からエタノール・酢酸を生産する微生物

・石油の中でも活躍できる微生物

・植物病原菌に感染してそれを撃退するウイルス

・貴重な資源である微量金属を高蓄積する微生物

・バイオ石油を生成し細胞内にため込む微生物

・残留農薬を分解する微生物

・頭の良くなる油脂類を生産する微生物

などがあります。スクリーニングされてきた微生物は、新たなバイオテクノロジーの構築の出発点となっています。

 スクリーニングを基盤にしたバイオテクノロジーの研究分野である発酵工学および農芸化学は100年ほど前、日本で誕生し、それ以来発展を続けております。この分野の泰斗である坂口謹一郎先生は、常々「微生物は裏切らない」と言っておりました。たとえそれまで存在が知られなかった生物機能であっても必死になってスクリーニングすれば、必ずその機能を有する微生物を取得することができる・・・という意味です。その裏には、もし、スクリーニングに限界があるとすれば、それは研究者のアイデアの貧困さに起因する・・・という意味が含まれているとも読み取れます。

 私たちと前代未聞の生物機能を持った微生物をスクリーニングしてみませんか?

 


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